日本電信電話(NTT)と東京大学は,室温動作可能な将来の汎用光量子コンピューターチップに必須となる高性能な量子光源(スクィーズド光源)を実現した(ニュースリリース)。
一方向量子計算という手法を利用する光量子コンピューターに期待が高まっている。この手法ではあらかじめあらゆる量子計算の重ね合わせとなる汎用的な量子もつれ状態(2次元クラスター状態)を用意しておき,量子ビットを順次測定していくことで残りの量子ビットを操作,任意の計算を実行する。
近年,飛行する光を量子ビットとし,光学的遅延線による時間領域多重方式を利用することで室温下において1万量子ビット以上の量子もつれ状態が実現されている。この方式では量子性を有した光(スクィーズド光)が用いられる。特に連続的に飛行し,かつ広帯域なスクィーズド光は,時間軸上に短い間隔で情報を載せることを可能にし,量子もつれ状態の大規模化や情報処理の高速化および光学的遅延線の短縮(小型化)を可能とする。
スクィーズド光は非線形光学効果により生成できる。従来はその量子ノイズ圧縮率を向上させるために光共振器内に非線形光学結晶を設置し,その非線形光学効果を高める手法が採られてきた。この手法では97%以上の高い量子ノイズ圧縮率が実現されてきたが,その帯域は共振器構造のせいで数GHzに制限されていた。
そこで共振器構造をとらない単回通過による光生成が必要となる。一般に連続波に対する単回通過の光生成はその効率が小さいため,導波路構造による強い非線形光学効果が利用されてきが,素子作製の難しさや材料特性により,報告されている量子ノイズ圧縮率は37%程度であり,2次元クラスター状態生成に必要となる65%よりも小さい値だった。
研究グループは,NTTの非線形光学結晶デバイス(周期分極反転ニオブ酸リチウム導波路)により,広帯域性と高いノイズ圧縮性の2つを同時に満足する量子光源の開発に成功した。
2THz以上のスクィーズド光を生成する広帯域性により,飛行する光量子ビットの長さを300μm以下に短縮でき,光チップ内での操作が可能になる。同時に光コンピュータ自身のクロック周波数を上げることが可能となり,高速な量子計算が期待される。さらに今回達成したノイズ圧縮率75%は,大規模な量子もつれ状態の生成に十分なため,今後の光量子コンピューターの研究開発を大きく加速するという。
現状これらの実験は光学定盤上で実験されているが,研究グループは今後,小型の光チップ上で光量子コンピューターを実現するための技術開発を行なっていくとしている。