日本原子力研究開発機構(JAEA)は,放射性物質の分布を短時間で測定し可視化するガンマ線可視化装置(コンプトンカメラ)を144台搭載し,レーザー光を用いた3次元距離測定センサーと組み合わせた全方位型の3次元放射線測定システム車iRIS-Vを開発した(ニュースリリース)。
JAEAの福島研究開発部門廃炉国際共同研究センター(CLADS)は,これまで小型軽量のコンプトンカメラを開発し,ドローンにも搭載して放射性物質分布の3次元可視化を行なってきた。
しかし,通常のコンプトンカメラでは装置の前方しか測定できない。そこで,小型コンプトンカメラを正十二面体(正五角形を12個組み合わせた立体図形)の上側6面に配置することにより,高感度であらゆる方向の放射性物質分布をパノラマ的に可視化できる全方位型コンプトンカメラを搭載した車両iRIS-Vを開発した。
iRIS-Vでは,全方位測定が可能となるとともに,放射線に対する感度が向上した。従来のコンプトンカメラでは前方の測定だけで10分程度を要したが,全周囲の測定がわずか80秒で完了する。駐車場で行なった試験では,放射線源(密閉型の試験用小型放射線源)を置いた車を特定することに成功した。
また,3次元距離測定センサーで取得した周辺の3次元画像と,コンプトンカメラで取得した放射線イメージを統合することにより,放射線源の位置や広がりを3次元的に推定することができた。
さらに,仮想現実(VR)モデルを用いることにより,放射線源のある場所を様々な方向,位置から3次元的に俯瞰することができる。加えて,これらの装置が全て車両に搭載されていることから,測定場所に移動して全てのデータが取得でき,その場で放射性物質の分布を可視化できる。
今後,福島第一原子力発電所(1F)サイト内や帰還困難区域等での全方位的な放射性物質の分布測定を行なうことにより,廃炉作業や除染作業の円滑な進捗に向けた利活用を進める。
1Fサイト内では,廃炉作業の進展に応じて放射線源の分布状況が変わっても,迅速にその変動を把握できることから作業者の安全や被ばく低減にも貢献できるという。帰還困難区域等では,除染計画の策定や除染のチェックに用いることにより,より安全で安心な作業に寄与できる。
さらに,通常のモニタリングカーは空間線量率の連続測定を行なっているが,iRIS-Vは空間線量率に加えて,放射性物質の位置や変動を短時間で把握し可視化できることから次世代型のモニタリングカーとして整備していくとしている。