東大,目的の原子層を全自動探索する顕微鏡開発

東京大学の研究グループは,AI画像認識を使って,光学顕微鏡画像中のさまざまな破片から,目的の原子層を全自動で探索するシステムを開発した(ニュースリリース)。

複合原子層(ファンデルワールスヘテロ構造)は,単原子層膜まで薄層化した二次元結晶を,ブロックを積み重ねるように組み立てた分子材料。原子レベルで精密に分子の境界面が制御でき,多様な材料(ディラック電子系・半導体・金属・超伝導体・トポロジカル絶縁体・ワイル半金属)から選択して組み合わせうることから,複合原子層は,既存の材料では実現し得なかった新しい物性を生み出す舞台として期待を集めている。

しかし,高品質な複合原子層は,実験者の手作業による光学顕微鏡探索および,組み立て作業により作製されてきた。これに対し研究グループでは,シリコン基板上に剥離された二次元結晶を光学顕微鏡により自動探索し,これらを任意の順番で自在積層するロボットシステム(2DMMS)を2018年に開発した

今回,これまで手作業に頼っていた原子層の探索効率を飛躍的に向上させるため,深層学習による画像認識アルゴリズムを搭載した自動化光学顕微鏡を開発した。この装置は,シリコン基板を走査しながら,光学顕微鏡画像の中にある原子層の位置・形状・厚みをリアルタイムで判別することができる。

多くの二次元結晶の光学顕微鏡画像を用いて深層学習アルゴリズムを訓練することによって,深層学習アルゴリズムにシリコン基板上の二次元結晶を識別する能力を獲得させた結果,1枚の光学顕微鏡写真を200ミリ秒で処理することが可能となり,リアルタイムでの画像認識が実現した。

また,深層学習アルゴリズムは高い汎化性能を持っているため,画像品質や照明の強度などが変化しても検出結果が影響を受けない頑健な認識が実現し,熟練の研究者が長時間かけて行なっていた認識作業を,90%以上の確率で再現することが可能となった。

その結果,光学顕微鏡画像を数値化し,閾値処理を加えることで対象となる領域を抽出する処理を省くことが可能となり,熟練の研究者が経験をもとに行なっていたパラメーターの調整が不要となった。

これにより,二硫化モリブデン(半導体),二テルル化タングステン(トポロジカル絶縁体)など,シリコン基板上に形成される確率が低く,探すことが困難とされている希少な原子層を,1時間あたり,5〜10個検出することができた。発見した二次元結晶薄片は,組立装置を利用する事によって,複合原子層構造の構成要素として利用する事ができる。

この開発によって,シリコン基板に剥離作業さえ行なえば,研究者は全自動でさまざまな二次元結晶薄片を利用することが可能となり,複合原子層を舞台とした材料開発や新規電子物性発見の効率を飛躍的に高めることができるとしている。

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