熊本大学と大陽日酸の研究グループは,水分の吸着・脱離に応じて光学特性が変化する金属有機構造体の性質を用いた窒素中微量水分計の開発に成功した(ニュースリリース)。
半導体の製造をはじめとした多くの産業に使用される高純度ガスは水分が混入すると,水分による酸化のため製品性能や歩留まりの悪化を引き起こす。水分は大気中に大量に存在するため容易に混入しうる上に,極性分子であるため様々な物質に吸着し,一旦混入すると大量のパージガスを使用して除去する必要がある。
従って,微量水分を嫌う製造プロセスにとって産業用ガス中水分濃度の多点監視は必須だが,適時性,高感度,高信頼性を満足する小型かつ安価な微量水分計はなかった。
そこで,研究グループは,多孔性構造を持つ金属有機構造体(Metal Organic Framework,MOF)を感湿剤として採用し,応答速度5分未満,検出下限値10 vol.ppb,価格1百万円未満を満たす窒素中微量水分計を開発した。
MOFは金属イオンと有機配位子との配位結合により形成される多孔性物質群であり,ガス貯蔵,ガス分離,触媒などへの応用が期待される次世代機能性材料。MOFの1つであるCu-BTCは,二価銅イオン(Cu2+)と1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)から形成され,常温にて水分子を吸着・脱離し,それに伴い特定波長の吸光度が変化する。この水分計は,この吸光度変化を検出し,水分濃度に換算することを基本原理としている。
微量域における水分濃度変化に対して高速かつ高い相関を持つ吸光度変化を示すことから高感度かつ高速応答で信頼性高く測定することができる。測定例では,微量水分を含んだ窒素ガスを導入した直後より指示値が上昇し,従来の汎用機に比して非常に高速な応答性を有することが確認でき,水分の混入を極度に嫌うプロセスにおける水分不純物濃度管理計器として利用可能となる。
大陽日酸は,同社関連工場における試験を進め,実環境下での長期フィールド試験を通じて,2020年度中に一般販売に繋げる予定だという。また,熊本大学は同社と協力して他のガス種への適用と更なる高感度化に向けた研究を進めていくとしている。