東京大学,理化学研究所(理研)の研究グループは,超伝導回路の特性を利用することで,超伝導共振器に蓄えられた電磁波(マイクロ波)に巨大な輻射圧を持たせることに成功した(ニュースリリース)。
物体の振動や音波といった力学的な振動系を量子制御の対象とする場合,その振動の寿命の長さが性能の良さを表す。そういった観点で,近年,物体中の弾性波,特に表面に局在化した表面弾性波と呼ばれる音波を利用した共振器が注目されている。
また,この表面弾性波共振器と量子コンピュータの基本素子でもある超伝導量子ビットを結合させる実験が多数行なわれており,その量子状態制御に関する実験も次々と報告されている。この研究でも,この表面弾性波共振器に着目し,それを超伝導共振器に蓄えられた電磁波の輻射圧によって制御する共振器オプトメカニクス系を開発した。
共振器オプトメカニクスでは,機械振動子の運動を通じて電磁共振器の周波数が変化することにより,振動子の運動が共振器のエネルギーを変化させる。その反作用として振動子は共振器内の電磁波から輻射圧を受けることになる。つまり,この「周波数変化」をいかに大きくするかが重要になる。
研究グループは,ジョセフソン接合と呼ばれる超伝導素子を複数組み合わせた,電流によってインダクタンスが変化する回路構成を用いることで,外部からの交流電場によって周波数が大きく振動的に変化する超伝導共振回路を開発した。
一方で,圧電効果を持つ基板上に電極を形成すると,表面弾性波は交流電場を発生させる。この電場を上記の超伝導回路に印加することで,表面弾性波によって周波数が大きく振動的に変化する超伝導共振器を構成することができる。この性質により,表面弾性波共振器はマイクロ波から輻射圧を受ける。
超伝導回路は水晶基板上のアルミニウム電極によって構成されており,同じく超伝導電極によって表面弾性波共振器が作られている。回路のパラメータを適切に調整することで,1つのマイクロ波光子の存在によって表面弾性波が大きな変化を受けるほど輻射圧を増強することに成功した。この巨大な輻射圧により,単一光子量子領域にある共振器オプトメカニクスを実現することができた。
この技術と超伝導量子回路によるマイクロ波の量子制御技術を組み合わせることで,音波やその他の物理系の量子制御が可能になり,量子メモリや量子中継器といった,量子コンピューティングや量子ネットワーク構築に必要な量子技術への応用が可能になるとしている。