日本電信電話(NTT)と東京大学,東日本電信電話(NTT東)は,複数の遠隔地間で240kmに及ぶ光周波数ファイバー伝送の実証実験を実施し,データ積算時間2600秒で,周波数精度1×10-18に達する超高精度光周波数遠隔地間伝送に成功した(ニュースリリース)。
光格子時計は,セシウム原子時計を桁違いに上回る超高精度な原子時計。この応用の一つに,複数の遠隔地に設置した光格子時計を光ファイバーで接続し,その周波数差を遠隔比較する「相対論的な効果を使った標高差測定(相対論的測地)」がある。それにより,重力ポテンシャル計測に基づく精度1cmレベルの水準点や,地震や噴火の前兆現象につながるわずかな地殻変動の日常監視など,新たなインフラの展開が期待されている。
東大と理研は基本的な実験として,2017年に30kmの無中継ファイバー伝送による2台の光格子時計の周波数比較を実現し,数cm精度の遠隔地間標高差測定の原理実証を行なった。ここで開発されたファイバー伝送の手法では,無中継で伝送できるのは100kmまでが限度であり,数百kmの県レベルや数千kmの全国レベルにまで拡大するには,高精度を保ったまま光を中継しながら伝送する技術が必要となる。
今回の実験は,1cm精度の標高差比較が可能な1×10-18という周波数の精度を保ったまま,200km級の遠隔地間へと伝送距離を拡張するために,複数の区間に分けて,リピーターを介して中継するカスケード方式を用いた。そのために,NTTとNTT東は,東大本郷キャンパスを基点にNTT厚木研究開発センターまで,複数の中継局(電話局)を中継した実証実験用の超高精度光周波数伝送ファイバリンクを構築した。
リピーターによる中継では,光の位相を検出するために光干渉計が用いられるが,従来の空間光学系やファイバカプラを用いた光干渉計では,干渉計自体が発する雑音を除去できないという問題があった。
そこで,NTTが独自に開発した平面光波回路(PLC)による差動検波型マッハツェンダー干渉計を用いることで,安定に動作するリピーターシステムを開発し,温度・湿度・振動等の細心の対策が施された実験室環境とは異なる電話局内の商用環境に設置した。
この実証実験用ファイバーリンクを用いて,1秒間のデータ積算時間で3×10-16,2600秒で1×10-18の周波数安定度および精度での伝送を実証した。この周波数伝送安定度は,東大が開発した世界最高精度の光格子時計を用いた遠隔地間周波数比較が実現可能なレベルであり,相対論的測地応用につながる成果だとしている。