東大ら,光でディラック電子の対称性の破れ観測

東京大学,関西学院大学,大阪大学の研究グループは,グラフェン中に存在する質量ゼロの電子(ディラック電子)が,極限強磁場下で「電子・正孔間の対称性の破れ」が生じていることを世界に先駆けて解明した(ニュースリリース)。

この研究で用いた純良なグラフェン試料は,SiC(シリコンカーバイド)を高温に熱することによって表面のシリコン原子が脱離し,残された炭素原子によりグラフェンが形成される熱分解法によって作製した。

グラフェンを作製する手法としては,基礎科学の分野では黒鉛(グラファイト)を剥離する方法が最も一般的だが,数10μm程度の大きさの試料しか得ることができないため,応用の見地からは大面積のグラフェン作製が可能な熱分解法や化学気相成長法などの研究が盛んに行なわれている。熱分解法では,伝導電子の散乱は剥離法により作製されたグラフェンに比べて大きくなるのと引き換えに,大面積かつ物理特性の均一なグラフェン試料を作ることが可能になる。

東京大学の電磁濃縮法磁場発生装置に単層グラフェンを1mm四方にカットした試料を配置し,光源として近赤外線レーザーを用いてサイクロトロン共鳴による精度の高い分光計測を行ない,グラフェンのランダウ準位を決定した。

その結果,300-500テスラの磁場領域でサイクロトロン共鳴スペクトルに分裂があることを観測し,デイラック電子と正孔のランダウ準位のエネルギーに僅かなズレがあることが明らかになった。200テスラまでの超強磁場を用いた実験では,この分裂は観測できなかった。

そのため,300テスラ以上の超強磁場を印加することによってサイクロトロン共鳴計測の分解能が格段に向上し,低磁場では検知できなかった僅かな差があること,すなわち,対称性の破れが生じていることを明らかにし,電子と正孔のランダウ準位のエネルギーの値を定量的に評価することができた。

従来,赤外線を用いた低磁場での分光測定でも電子と正孔の磁気光学遷移に差が生じている報告があるが,十分な分解能がない為,電子・正孔間のギャップの存在を無理やり仮定するなどの解釈が必要だった。

更に,電子と正孔のエネルギー分散関係が対称であるとの解釈のもとで成り立っていた単層グラフェンの伝導電子に関するこれまでの量子現象は,この修正された理論モデルの枠で理解されるべきであることが示された。

この研究によって「電子と正孔の対称性の破れ」という新たな自由度が見つかったことで,単層グラフェンを用いた量子エレクトロニクスへの基礎および応用研究がより発展することが期待されるとしている。

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