カナダ アルバータ大学と東京大学の研究グループは,単一原子の元素識別という究極的な化学分析法を開発した(ニュースリリース)。
これまでプローブ先端の原子構造に関する研究は行なわれていたが,原子種を識別することは非常に困難だった。研究グループは,まずプローブ先端の原子を元素識別する方法を提案した。
基板表面上に既知の原子を2種類用意し,プローブ先端に付着した分析対象の原子を,それらの既知原子に精密に近づける。そして,分析対象の原子と既知原子との間に働く化学結合エネルギーを計測する。得られた2つの化学結合エネルギーの組をポーリングの化学結合論で得られる予測値と比較することによって,分析対象の原子の元素を識別することができる。
実際に,原子間力顕微鏡(AFM)を用いて,各々のプローブにおいて,先端に付着している原子がSiであるかAlであるかが明確に識別できた。
さらに,研究グループは先端の原子が識別されたプローブを用いた応用実験も行なった。以前の研究により,AFMによって試料表面の単原子の電気陰性度が測定できることを示していたが,解析の一部に理論計算によるサポートが必要だった。今回,元素識別されたプローブを用いることで,実験のみで表面原子の電気陰性度を決定できることが分かった。
今回開発された元素識別法により,構成元素が不明,かつ,構造が不規則な実材料表面に対しても,元素分析への道が拓かれた。すなわち,AFMにより実材料表面を観察して,任意の場所にプローブを接触させその先端に原子を付着させ,その原子を元素識別できる。よって,汎用性の高い原子スケールの元素識別法が確立されたとした。
この研究で,さまざまな実材料表面に対する原子スケールでの化学分析が可能となったので,今後の材料探索や分析化学の分野において大きな貢献をしていくことが予想されるとしている。