玉川大学は,光波にて暗号鍵を用いて発生したY-00光通信量子暗号(Y-00暗号)を,光ヘテロダイン法を用いて無線通信で通常用いられるμ波へと変換することで,無線信号を高い安全性で暗号化する手法を提案・実証した。(ニュースリリース)。
Y-00暗号の秘匿効果は,信号の周波数の平方根に比例する。光ファイバー通信システムで用いられる光波は200THz程度と極めて高い周波数をもつため,高い秘匿効果が実現される。一方,無線通信に用いられるマイクロ波の周波数は,光波と比較して3桁から6桁小さく,同等の秘匿性を維持した暗号化を行なうことは困難だと考えられてきた。
研究グループは,光波Y-00暗号をμ波に変換して無線通信するための実験を行なった。まず12Gb/sの高速のデータと暗号鍵から,約1550nmの波長にて光波Y-00暗号を発生した。
次に,別のレーザーから異なる波長の局発光を発生して,光波暗号と合波する。ここで,光波暗号と局発光の周波数の差を無線信号として送出したい所望のマイクロ波周波数に設定する。今回の実験では約30GHzとした。光ファイバーを使って双方の信号をアンテナ近傍まで伝送し,フォトディテクタにより検波する。
このヘテロダイン法により30GHzを中心周波数とする12Gb/sの暗号が発生する。このマイクロ波の暗号を,アンテナを用いて無線信号として送受信する。受信後,高周波ミキサによりベースバンドへ変換し,暗号の復号化を行なった。
その結果,周波数30GHzを中心としたマイクロ波の信号がヘテロダイン法により発生できていることが確認できた。暗号化された無線信号は同心円状に配置されており,その位相はデータとして復号できないが,暗号鍵を使った復号化により信号点が4点に集約され,正しく復号できることが確認された。信号品質は実用の基準を十分に満たしており,量子雑音による秘匿効果が得られることを理論的に示した。
このように,十分な通信品質と安全性を両立した無線暗号通信システムを実現した。今後は,この成果を基盤として,様々な周波数帯の無線通信に,信号の傍受を量子雑音の効果によって防ぐ暗号技術を導入すること目指すとしている。