東京大学の研究グループは,酸化物半導体の表面上に高い移動度を持つ二次元正孔伝導を実現することに初めて成功した(ニュースリリース)。
固体の界面には,その物質自体には見られないようなさまざまな有用な物性が潜んでいることがある。例えば,絶縁性を示す酸化物であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の表面に,絶縁体であるアルミン酸ランタン(LaAlO3)の薄膜を形成すると,それらの界面で,非常に高い移動度をもつ二次元電子伝導(n型伝導)が起こることが知られている。
この界面では,超伝導,強磁性,巨大熱電効果,量子ホール効果などといった興味深い現象が観測されている。これらの現象は,基礎物性の観点からだけでなく,電子デバイスへの応用の観点からも注目されている。
この高い移動度をもつ二次元電子の伝導性に加えて,酸化物ならではの多様性に富んだ物性を組み合わせることより,現在のシリコンベースのエレクトロニクスに新たなパラダイムシフトをもたらすことができると期待されている。
一方で,電子デバイスとして用いるためには,n型だけでなく,p型伝導を実現することも重要となる。しかし,SrTiO3基板上ではn型伝導は実現できるものの,二次元正孔伝導(p型伝導)を実現することは今まではできなかった。
高移動度のn型伝導が容易に実現できるのに対して,高移動度のp型伝導の実現が困難であることは,酸化物の研究における一つの謎であり,酸化物を用いたエレクトロニクスの実用化においても大きな課題となっていた。
研究グループは,酸化物半導体の表面上に高い移動度をもつ二次元正孔伝導を実現することに初めて成功した。研究グループは,汎用性の高いチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)基板の表面上に,超高真空下で0.25nm以下の極めて薄い鉄の薄膜を室温で蒸着し,それを大気にさらすことにより酸化して酸化鉄(III)(FeOy,y≈1.5)を形成した。
SrTiO3と酸化鉄(III)はともに絶縁体だが,この研究は,これらの界面において非常に高い移動度(10Kにおいて約24,000cm2/Vs)をもった二次元正孔伝導が起こることを明らかにした。また,鉄の膜厚を0.25nmからわずかに増やすだけで,二次元伝導性が保たれたまま,伝導型がp型からn型に変化することも判明した。
この研究により,酸化物を用いて高い移動度をもつp型半導体とn型半導体からなるダイオードやトランジスタなどの高性能な電子デバイスを実現でき,それらにより構成される集積回路を,酸化物基板上に非常に安価に実現できるようになることが期待されるとしている。