神大,励起子分裂によるスピン量子もつれ転送実証

神戸大学の研究グループは,有機半導体薄膜の一重項励起子分裂で生成する中間体として磁性をもつ三重項励起子対の電子スピンの状態を,時間分解電子スピン共鳴法を用いて明らかにした(ニュースリリース)。

これまで研究グループは,一重項励起子分裂により生成する強い磁性を持った強相関五重項励起子対5(TT)の生成機構について独自に明らかにしてきた。

しかし,磁性のない一重項や,磁性をもつ五重項の強い相関が解かれた励起子対(T+T)に対し,量子重ね合わせ状態を量子論で表した例はこれまでになく,初期に生成した量子もつれや量子コヒーレンスがどのように解離の際に発展し量子スピン系を形成するのかについての理解は全くなされていなかった。

研究では,外部磁場存在下で反応中間体の磁気的性質をμ波により検出する時間分解電子スピン共鳴法を用い,三重項励起子対を温度80Kの高温条件にて観測した。

ペンタセン誘導体(TIPS-Pc)による結晶性,および非晶性をもつ固体薄膜基板をスピンコート法によって作成し,この試料に対しパルスレーザー光を照射した。これにより生成した強相関励起子対と解離三重項励起子によるマイクロ波の吸収(A)および放出(E)の信号を100ナノ秒の精度で検出した。

今回,このマイクロ波遷移の信号を量子論に基づき解析するための手法として,弱く相関した三重項対に対する「電子スピン分極移動モデル」を新たに構築した。各解離三重項励起子のスピン間相互作用により弱い相関をしめす励起子対に対し,量子重ね合わせによるスピン波動関数を表した。

強相関励起子対の一重項および五重項量子もつれの転送による9つの量子重ね合わせ状態への状態分布と量子エネルギー準位から,量子状態間に起こる16本のマイクロ波遷移を表し電子スピン共鳴スペクトルを解析した。この結果,マイクロ波の吸収(A)と放出(E)による信号パターンが説明され,量子テレポーテーション効果が実証された。

また,この解析により,スピン量子コヒーレンスの生成には中間状態として光照射後に生成する解離直前のT・・・T励起子対の電子スピン間相互作用(スピン双極子間相互作用:dS-S)が重要な鍵を握ることが明らかになった。

この性質よりT・・・Tの立体配置として,励起子どうしが0.8nm水平位置に離れた状態であることが判明した。さらにこの状態からの励起子解離が20psの速さで起こることが量子論に基づく解析により示された。このような高速なT+Tへの解離によって一重項スピン量子もつれとその量子コヒーレンスが転送される様子が初めて具体的に明らかになった。

今後はこのスピン量子効果を有効利用して,光入力による拡張型量子ビット系によるスピン量子演算を可能とする量子コンピュータの基本設計や,超高効率な有機薄膜太陽電池の開発に活かすことが期待されるとしている。

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