東大ら,反強磁性の異常ホール効果をTHzで観測

東京大学,米ジョンズホプキンズ大学の研究グループは,室温において反強磁性金属の異常ホール効果をテラヘルツ周波数(THz)帯で観測することに成功した(ニュースリリース)。

反強磁性秩序のスピンの向きの変化は強磁性秩序よりも2,3桁ほど速く,テラヘルツ周波数帯で駆動させることができる。さらに漏れ磁場がほぼゼロに近いため隣接素子への磁気的影響が無視でき,次世代の高速スピントロニクス材料として期待されている。しかし反強磁性秩序は外部からの刺激に対する応答が非常に小さいため,スピン秩序の情報を読み出すことが難しいという問題があった。

研究では,2015年に研究グループが開発した反強磁性金属化合物Mn3Snに注目し,この物質特有の反強磁性秩序に由来する異常ホール効果をテラヘルツ周波数で観測した。

テラヘルツ周波数帯は,電波と光の中間領域の周波数であるため,この周波数帯の電磁波を用いて光学的な実験手法によって非熱的に非接触に物質の電気伝導を測定することが可能。研究グループは,パルスレーザーを用いてテラヘルツ光パルスを発生させ,試料に入射した。

テラヘルツ光が持つ交流電場に対して異常ホール効果が生じると,試料を透過した光の偏光が回転することに注目し,偏光回転を精密に計測することのできるテラヘルツ時間領域分光システムを開発した。

0.5THzから1.5THzの周波数帯において20分の積算時間で0.05mrad以下の精度で計測できる世界最高クラスの高精度な分光システムを構築し,さらに6THzほどの広い帯域にわたって異常ホール伝導度を詳細に調べた。

その結果,強磁性体並みに大きな異常ホール電流がテラヘルツ周波数帯でもほぼ無散逸に流れること,スピン情報が半年以上経過してもなお安定に保持されることなどが明らかになり,反強磁性体を用いたスピン秩序情報の高速読み出しに向けた指針が築かれた。また今回開発された手法によって1兆分の1秒の時間分解能で異常ホール効果の計測が実現した。

研究によって,物質の状態が高速に変化する非平衡状況下における異常ホール効果の時間変化を詳細に調べることが可能になった。研究グループは反強磁性スピン秩序を高速に読み出す手法を確立したことにより,高速スピントロニクスへの応用とさらなる物性解明が期待されるとしている。

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