東工大,X線と赤外線で酸化銅粒子の構造解析

東京工業大学の研究グループは,1nm程度の酸化銅サブナノ粒子が,炭化水素の酸化反応において高効率触媒活性を示す要因を明らかにした(ニュースリリース)。

酸素親和性の高い遷移金属(チタン,鉄,銅など)を含む酸化物は遷移金属と酸素原子から安定な結晶構造を形成するため,そのバルク材料やナノ粒子が顕著な触媒活性を示すことはほとんどない。

これに対して,1nmサイズの物質は規則的な原子配列を持たないアモルファス構造が支配的であり,従来のナノ粒子より触媒活性が向上することが期待されている。

しかし,サブナノ酸化物粒子を合成する手法は限られているため,その粒子構造や触媒機能はほとんど理解されていなかった。この研究では,樹状型高分子デンドリマーを鋳型として用いることで,原子数が規定されたサブナノ酸化銅粒子の合成および構造解析を行ない,炭化水素の酸化反応において高い触媒活性を示す要因を探究した。

サブナノ酸化銅粒子の合成には樹状型の規則構造をもつデンドリマーをテンプレートとして利用する。デンドリマー構造中に銅イオンを取り込み,化学還元により銅粒子が形成された後,大気下で晒して酸化銅粒子を合成した。

X線光電子分光法,赤外分光法による構造解析の結果,サブナノ酸化銅粒子に含まれる銅-酸素(Cu-O)結合は,酸化銅粉末の結晶性Cu-O結合とは全く異なっていた。その特徴は,極小粒子の歪み構造が影響してCu-O結合が伸長すること,Cu-O結合間にイオン性が増大して分極が生じることだという。

理論計算から再現化したサブナノ酸化銅粒子はアモルファス構造を形成し,かつ,そのCu–O結合間に電荷の偏りが増大したことから,各種分析結果を合理的に説明することができた。

さらに,これらの結合状態は空気中の水分子が作用して粒子表面に多くの水酸基が吸着するという化学特性も観測された。これは,従来のナノサイズと比較して「サブナノ酸化銅粒子は反応性が高い状態を保持している」とみなすことができる。

実際に炭化水素(トルエン)の酸化反応において,ジルコニア(ZrO2)に担持したサブナノ酸化銅粒子は市販ナノ粒子より高い触媒活性を示すだけでなく,粒子サイズの減少に伴って触媒活性が向上する実験結果を得た。サブナノ酸化銅粒子の構造解析から触媒活性が向上する関連性を明らかにした。その結果,安価な銅を含むサブナノ酸化物が酸化反応において貴金属ナノ粒子にも匹敵できる触媒活性に至ったことを実証できた。

この研究成果は,既成概念にとらわれないサブナノ酸化物粒子の精密な構造解析や化学特性に関する実験結果をもとに,安価な銅触媒でも高難度炭化水素の酸化反応を引き起こす触媒技術開発に貢献できるとしている。

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