物質・材料研究機構 (NIMS),東北大学,東京大学,理化学研究所(理研),スペインのバスク大学,独マックス・プランク研究所,仏ソルボンヌ大学,伊ローマ・ラ・サピエンツァ大学の研究グループは,温度-23℃というほぼ室温で超伝導になる高圧下ランタン水素が,原子核の量子ゆらぎのおかげで広い圧力域で安定に存在する「量子固体」であることをコンピュータシミュレーションにより発見した(ニュースリリース)。
超伝導物質はゼロ抵抗でエネルギーロスの無い送電が可能であるため,環境エネルギー問題解決のカギとして注目されている。特に室温超伝導の実現は長らくの夢であり,これまで多くの研究が行なわれてきた。
そんな中,130~220GPaの高圧力下でランタン水素が絶対温度250K(−23℃)というほぼ室温で超伝導化することが2019年に報告され,それまでの超伝導転移温度の最高記録を塗り替えた。
高い温度で超伝導を実現する立方晶構造のLaH10は130~220GPa の広い圧力域で安定に存在している。しかし,これまでの理論計算はこの構造を安定化するには230GPa以上の高圧が必要であると予測していた。なぜ理論予測より100GPaも低い圧力で立方晶構造が安定なのか,その理由に注目が集まっていた。
この研究では,これまでの理論計算で無視されていた原子核の量子ゆらぎに注目し,この効果を取り入れたコンピュータシミュレーションを行なった。
その結果,高圧下ランタン水素において水素原子核の量子ゆらぎが極めて大きいこと,そして立方晶LaH10が量子ゆらぎ効果によって広い圧力域で安定化している「量子固体」状態であることを明らかにした。また,量子ゆらぎ効果を考慮した計算によって,実験で得られた超伝導転移温度を圧力依存性も含め精度良く説明することにも成功した。
現在,高圧下ランタン水素の超伝導転移温度をさらに塗り替える別の水素リッチ化物の発見が期待されている。今回の研究で用いたシミュレーション手法はランタン水素に限らず様々な物質へ適用可能となる。
また,量子ゆらぎ効果を精密に取り込むことができるため,従来手法よりも高い精度で安定性・超伝導転温度予測を様々な圧力で実行することが可能だという。今後は適用対象を広げ,室温超伝導を達成する新物質の理論予測を目指すとしている。