甲南大学,兵庫県立大学の研究グループは,兵庫県立大学高度産業科学技術研究所が運営するニュースバル放射光施設において,世界最高性能のレーザーコンプトンガンマ線ビームと新開発の平坦効率中性子検出器を用いて光核反応データを取得することにより,30年続いたアメリカとフランスの測定データ間の矛盾を解決した(ニュースリリース)。
光核反応データは,原子核反応の基本的な性質を表す重要なデータで,原子核の構造や反応(原子核物理学),元素の起源(宇宙核物理学)のような基礎研究だけでなく,電子線形加速器施設や医療放射線施設などの放射線遮へいの計算などにも使われる。
しかし,光核反応データの測定を主導的に実施してきた米・ローレンスリバモア国立研究所と仏・CEAサクレー研究所で得られた測定データ間には大きな矛盾があり,どちらが正しいのか30年も議論が続いていた。そこで,国際原子力機関(IAEA)では,この問題を解決するために,光核反応データライブラリーの開発プロジェクトを5年計画として2016年にスタートさせた。
このプロジェクトへの招へいを受けた甲南大学はアメリカとフランスの測定データ間にあった矛盾の主因が,照射するガンマ線ビームと中性子検出器にあったことを見出し,これらを改善した光核反応実験を行なうため,兵庫県立大学とともにPHOENIX国際共同研究を立ち上げた。
実験には,ニュースバル放射光施設の世界最高性能のガンマ線ビームを用い,さらに光核反応で放出される中性子の多重度を決定するための革新的な手法を考案した。この手法を基に開発した平坦効率中性子検出器を使って光核反応データを取得することにより,この問題を解決に導いた。
同じく招へいを受けた日本原子力研究開発機構(原子力機構)では得られた測定データなどを基に核反応理論モデル計算を実施し,光核反応データを整備した。測定・整備したデータを IAEAへ提供することで,実験・理論の両面から「IAEA 光核反応データライブラリー2019」の完成に大きく貢献した。
今回,光核反応データの歴史的な不一致が解消されたことで,宇宙・原子核物理学などの科学的研究や工学,放射線医学などの実用的な面にも大きく貢献することが期待されるという。
特に放射線医学の分野では,精度の高い光核反応データにより,ガンマ線照射施設などの放射線遮へいに対する設計裕度の低減や放射線治療における人体へのガンマ線照射の最適化が可能になるとしている。