産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは,有機化合物の一種であるコハク酸誘導体が自己組織化で形成する二分子膜をテンプレートとして用いた,単結晶金ナノ材料の簡便な合成法を開発した(ニュースリリース)。
金ナノ材料は通常は,金イオンの溶液を還元して得られる。しかし,金ナノ材料のサイズや形状の均一性や結晶成長方向を制御することが困難なため,従来の作製法では,長時間の複雑な反応を要し,コストや環境負荷が高いことが問題だった。
今回,コハク酸の誘導体が金イオンの還元剤,生成する金ナノ材料の分散剤として働き,しかも,この化合物が形成する二分子膜がテンプレートとして働くため,金ナノ材料の結晶成長方向が2次元方向に制御されて,シート状の金ナノ材料(金ナノシート)が生成することを見いだした。金イオンの溶液とコハク酸誘導体の溶液を適切な温度で混合するだけで金ナノシートが生成する。
例えば,金イオンの水溶液(テトラクロロ金(III)酸,2mmol/L)とコハク酸誘導体であるドデセニルコハク酸(DSA)の水溶液(約0.3mol/L)を混合し,53℃に保持すると,溶液の色が変化し始め,約15分後には金ナノ材料に由来する特徴的な色(ワインレッド)が現れる。約1.5時間で,金ナノシートが得られた。
従来の金微粒子の合成方法では,一般的に5~12時間程度の反応時間を必要としたことから,この方法により短時間での合成が可能になった。この方法は,金イオン以外に一種類の試薬のみを用い,しかも,水中での攪拌が不要な反応であるため,従来法よりも低環境負荷となる。
得られた金ナノシートのサイズは,厚みが約十nm,横幅が約6μmだった。X線回折を測定すると,金(111)面に由来する回折ピークが主に観測され,金ナノ材料は(111)面に配向した単結晶の集合体であることを確認した。
また,この粒子についてエネルギー分散型X線分析法を用いて元素分析を行なうと,金に加えて,炭素や酸素も検出され,コハク酸誘導体に由来する有機分子が金ナノシート表面に付着して分散剤として作用していることが分かった。
得られた金ナノシートを集めた集合体は柔らかく粘土のように成型可能であり,金粘土として使用することが可能になる。また,そのままの状態でも導電性を示すが,圧縮すると導電性が大幅に向上するため,それを利用して導電性ペーストやインクへの適用が考えられるという。
今回の成果で,金ナノ材料のサイズ,形状の均一性,結晶成長方向を制御でき,かつ高速な製造法への道が開けたとしている。