東北大学の研究グループは,金属―絶縁体―金属トンネルダイオードにおいて,トンネル層と金属の間に自然酸化膜を意図的に成長させることでダイオードの高速応答性能が大幅に向上し,従来の10,000倍の光電変換効率向上が可能であることを明らかにした(ニュースリリース)。
光を直接電力に変換するデバイスとして,アンテナで捉えた光(電磁波)をダイオードで整流する”レクテナ”が注目されている。レクテナではこれまでに電子レンジの波長域(マイクロ波領域(GHz))では90%以上の電力変換効率が得られていたが,太陽光のような可視光波長域(数百THz~)では,このような高い周波数で作動する高速応答ダイオードがないため作動できなかった。
高い光電変換効率を実現するためにはダイオードの低抵抗化と非対称性を同時に向上させることが必要となる。これに対し研究グループはトンネル層を構成する金属酸化物とその金属を用いた電極層(酸化チタン(TiO2)とチタン(Ti))の間に酸素不定比性の自然酸化膜(TiO2-x )を形成することでダイオードの高速応答性と高い非対称性が実現され,光電変換効率を大幅に向上できることを明らかにした。
この特性は酸素不定比性を持つ酸化物層の導入によって,単純なMIM構造よりも順バイアス時の有効トンネル障壁厚さが縮小することで電流密度が向上するのに加え,順―逆バイアス時の有効トンネル障壁厚さの差が大きくなり,非対称性も向上することに起因している。
実際の構造としてはスパッタした下部電極層(Ti)を大気中で加熱することで表面に自然酸化膜(TiO2-x)を形成し,原子層堆積法によってトンネル絶縁層(TiO2)を形成した後,上部電極層(白金(Pt))をスパッタした積層構造となっている。作製した構造断面を透過型電子顕微鏡によって観察すると,想定した界面構造が形成できていることがわかった。
また作製したダイオードの電流―電圧曲線は,酸素不定比性酸化物層を有するトンネル障壁モデルを用いて解析した結果とよく一致し,一方で酸素不定比性酸化物層の無い構造の解析結果とは差が見られた。以上の結果より酸素不定比性の自然酸化膜がダイオード特性に影響し,高い電流密度と非対称性の向上に寄与したことが明らかとなった。
この研究により光レクテナ用のダイオードとして,従来のMIMトンネルダイオードを用いた場合の理論値と比較して1,000倍以上の効率向上が実現可能であることを示した。さらに自然酸化膜の膜厚最適化により,約10,000倍の高効率化が期待できることも明らかとなった。研究グループでは光レクテナの実現性向上に大いに貢献する成果だとしている。