京大ら,無磁場下で超伝導ダイオード効果を制御

京都大学,スイス連邦工科大学,露極東連邦大学は,強磁性体を含む極性超伝導多層膜において,外部磁場を用いずに一方向にのみ電気抵抗がゼロとなる超伝導ダイオード効果を観測した(ニュースリリース)。

物質中に空間反転対称性の破れが存在するとき,電流の非線形応答によって非相反電荷輸送※7が生じることが期待される。一般的な半導体ダイオードは有限の電気抵抗を持っており,さらに低温においても電気抵抗が大きいため,各部品におけるエネルギー損失が問題となる。

一方で,そのような問題の解決に向け,電気抵抗がゼロである超伝導体を用いて,ある特定の方向においてのみ抵抗がゼロとなるような超伝導ダイオードが報告されてきたが,その動作には外部磁場が必要であり,実用化への妨げとなっていた。

研究では,空間反転対称性の破れた超伝導体として,Nb,V,Co,V,Taから成る多層膜をスパッタ法で成膜した。極性構造を有する多層膜試料を細線形状に微細加工し,電流源と電圧計を用いた測定配置で4端子電気抵抗測定を行なった。

多層膜面内かつ電流と直交する方向に外部磁場を印加し,強磁性体であるCo磁気状態を変化させながら,電気抵抗の直流電流依存性を調査した。その結果,この多層膜では超伝導と強磁性が共存するだけでなく,Nb/V/Co/V/Ta多層膜の臨界電流が磁化と印加電流の方向によって異なり,Coの磁気状態を制御することによって,外部磁場が印加されていない状態においても超伝導―常伝導スイッチングを実証することに成功した。

さらに,磁化方向の正負で超伝導ダイオード効果の方向を制御することにも成功し,今回観測された無磁場下における超伝導ダイオード効果は,多層膜積層方向の空間反転対称性の破れによる効果であると考えられるという。

今回観測された不揮発性超伝導ダイオード効果は,外部磁場を用いずに,エネルギー非散逸かつ方向制御可能な電荷輸送技術の確立に向けて新たな知見と可能性を提示すもの。さらに多層膜構造では,構成元素,積層回数,積層順序等の物質設計の自由度が高いため,今後は超低消費電力の新しい不揮発性メモリや論理回路への応用の観点から,ダイオード性能の向上,及び新奇物質の探索が行なわれると考えられるという。

一方で,磁性によって超伝導体ダイオード効果が変調される微視的なメカニズムについては今なお不明瞭な点が多く残されており,研究グループは,実験と理論の両面からアプローチして解明することが求められるとしている。

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