東京大学,東北大学,大阪大学,筑波大学,広島大学,米スタンフォード大学,産業技術総合研究所(産総研),物質・材料研究機構の研究グループは,有機半導体単結晶超薄膜が基板に吸着する際の分子形状を0.1nmの精度で決定することに成功した(ニュースリリース)。
π共役系という化学構造を持つ有機分子は半導体的な性質を示し,有機溶媒に溶かしたインクとすることで,印刷プロセスを用いて柔軟性のあるデバイスを作製できることから,次世代半導体材料として期待されている。
研究グループではこれまでに,厚さわずか数分子層(10nm程度)からなる有機半導体単結晶超薄膜を大面積で塗布可能な印刷手法を開発した。
この超薄膜中では,1cm2あたりに100兆個以上の分子が自ら集合することで高品質の単結晶が形成されるため,半導体の性能を示す移動度の値として,実用化の指標である10cm2/Vsを超える性能を有することが分かってきた。
しかし,高品質の有機半導体単結晶薄膜を構成する分子一つ一つの形状は電子の輸送に少なからず影響を与えるにも関わらず,基板界面の分子の形状を精密に計測することは極めて困難だった。
今回,研究グループは印刷プロセスを用いて半導体のインクから有機半導体単結晶の単分子薄膜を作製した。基板の上に保持された半導体インクの表面では,たくさんの分子が自ら集合し,薄膜を形成する。インクと気相(気液界面)で得られた薄膜は,インクの乾燥に伴い基板上に貼り付く(物理吸着)。
このような薄膜に対して,国内外の放射光施設を駆使してX線の反射や吸収の精密計測に取り組んだ。そうすることで,有機半導体単結晶の基板界面の分子の形状を0.1nmの精度で決定することに成功した。
その結果,基板に物理吸着するだけで,100兆個以上におよぶ全ての分子の形状が同じように変化することを世界で初めて明らかにした。
また,この基板界面付近の分子形状の変化は,厚さが4nmの1分子層からなる膜でのみ観測され,超薄膜の厚さを制御することで,物理吸着による分子形状の変化が抑制され,電子状態が変化するとともに移動度が40%以上向上することも明らかとなった。
この研究で明らかとなった物理吸着による分子形状の変化は,これまでの常識を打ち破る結果であり,今後,デバイス作製時の異種材料界面を制御することで,有機エレクトロニクス材料のさらなる高性能化・高機能化が期待されるとしている。