広島大学,露サンクトペテルブルグ大学,スペイン・ドノスティア国際物理センターの研究グループは,広島大学放射光科学研究センターにて高輝度シンクロトロン放射光やレーザー光を利用した角度分解光電子分光法を用いて「反強磁性トポロジカル絶縁体」を世界で初めて発見した(ニュースリリース)。
トポロジカル絶縁体という通常の絶縁体とは異なる特殊な絶縁体の存在が明らかになり大きな注目を集め,2016年のノーベル物理学賞につながった。トポロジカル絶縁体は,物質の内部は電気を通さない絶縁体にも関わらず,表面では金属的な振る舞いを示すことが知られており,最近5年間で大きな進展があった。
このトポロジカル絶縁体に磁石の機能を加えることにより,全く新しい現象が予測・発見されている。一つは量子異常ホール効果と呼ばれ,トポロジカル絶縁体に少量の磁性元素を混ぜることにより,試料の端に沿って摩擦のない電流を外部磁場なしで発生することができる。
もう一つは,トポロジカル電気磁気効果で,通常は,電場をかけることで電気分極が発生し,磁場をかけることで磁化が生まれる。しかし,トポロジカル電気磁気効果では,電場で磁化を発生し,磁場で電気分極を発生する。
このようにこれまでの常識をくつがえすような効果が,反強磁性トポロジカル絶縁体で現れることが理論的に予測されていたが,そのような物質はこれまで見つかっていなかった。
研究グループは,まず高度な理論計算手法を用いてMnBi2Te4が反強磁性トポロジカル絶縁体になりうることを予測した。次にその単結晶試料の作製を行ない構造,磁性,電気的特性を調べたところ,同物質が層状の反強磁性体であることを明らかにした。
その試料を,広島大学のシンクロトロン放射光を利用した角度分解光電子分光を用いて実験を行なったところ,その物質の表面に大きなエネルギーギャップが開いたディラック電子状態を直接的に観測した。こうして,世界で初めて反強磁性トポロジカル絶縁体の実現に成功した。
研究グループは,今回の研究成果により,未知の素粒子アクシオンが引き起こすトポロジカル電気磁気効果などの新しい量子現象の観測に向けた研究が加速されることが期待されるとしている。