京都大学の研究グループは,1000件規模の並列合成実験データを活用して,新物質を合成するための実験条件を効率的に探索できる推薦システムの開発に成功した(ニュースリリース)。
近年,計算材料学や人工知能(AI)を活用することで未知の物質を予測する研究が世界的に活発になっている。しかし,予測された新物質を実際に合成するためには合成研究者による勘と経験に基づく多くの試行錯誤の実験が必要となる。AIを適用するための実験結果のデータベースを構築することがボトルネックとなり,多くの新物質が「絵に描いた餅」状態だった。
研究グループはまず,合成実験の成否に関するデータを系統的に得るために,無機化合物の並列合成実験システムを構築した。一般に未知の無機化合物を合成する際には,合成方法,原料,焼成温度などさまざまな合成条件について,研究者が一つ一つ試料を合成するが,並列合成実験では多数の試料を同時並行的に合成することができる。研究グループは,4種類の合成方法に対し,系統的に合成実験を行なうシステムを開発した。
対象としたのは2種類の陽イオンと酸化物イオンから構成される3元系酸化物。23種類の原料を用い,そのさまざまな配合比に対して,5種類の焼成温度で,合計約1600通り合成した。
そして,目的の性質を持った物質ができたかどうかを,試料自動交換機を備えた粉末X線回折装置で連続的に評価,点数化し,約1600件の合成成否に関するデータベースを構築した。
モリブデン酸アルミニウムを合成目的とした場合の例では,4種類の合成方法と5種類の焼成温度に対し,モリブデン酸アルミニウムが合成できているかどうかで点数を与えている。このような作業を,その他の3元系酸化物でも行なう。
次に,この1600件の合成成否データを,探索対象となる約24万通りの全実験条件を表した合成条件テンソル(合成条件データの多次元配列)に入力した。低ランク性の仮定のもとでテンソル分解することで,未実験の条件についての合成実験の成功可能性を予測しスコアとして与える推薦システムを開発した。
得られた結果の妥当性を検証するため,交差検定をするとともに,高い成功可能性スコアを有する物質で実際に合成実験をした。
その結果,推薦システムが予想した通り,各物質でスコアの高い合成条件では合成に成功し,スコアが低い合成条件では合成が失敗することが分かった。開発した手法は,新物質の合成条件の探索が大幅に効率化できることを示すという。
この研究は合成成否だけでなく,さまざまな特性値に対しても適用可能であり,広範な材料開発への応用につながるとしている。