東京大学,英University of Southampton,独Ludwig-Maximilians-Universität München,京都大学,東京工業大学,東京農業大学の研究グループは,葉緑体から核へのシグナル伝達に関わる制御因子であるGUN1の機能解析に取り組み,GUN1がヘム合成酵素の活性を調節すること,またヘムと結合して,そのシグナル伝達を調節することを明らかにした(ニュースリリース)。
植物の葉緑体形成は,核コードの葉緑体関連遺伝子の環境・発達によるシグナル(アンテログレードシグナル)と,葉緑体から核へのレトログレードシグナル(RS)によるバランスで制御されている。RSは葉緑体の分化・機能状態に依存して核ゲノムの葉緑体関連遺伝子の発現を制御するシグナルを核に伝達すると考えられている。
これまでRSについては,葉緑体の光合成機能が欠損しても核ゲノムの葉緑体関連遺伝子の発現が抑制されないシロイヌナズナgun変異体を主に用いて解析が行なわれ,プラスチド内のヘム合成酵素フェロキラターゼ1により合成されるヘムがRSとして機能することが示されている。
研究グループは,植物から初めてフェロキラターゼ1の単離に成功し,その解析から植物細胞ではヘムが葉緑体でのみ合成され,細胞内のミトコンドリアなどのオルガネラに輸送されること,さらにフェロキラターゼ1がプラスチド外に輸送されるヘムを合成していることをこれまで明らかにしている。
一方,GUN1は,プラスチド内でRSの中心的な働きをもつ情報伝達因子と考えられている。これまでに,GUN1は葉緑体内のフェロキラターゼ1と結合すること,またGUN1タンパク質量が分解により厳密に制御されていることが示されている。
さらに最近,GUN1が葉緑体タンパク質の輸送やRNA editingに関与することが報告された。しかし,これまでの研究からは,GUN1 がどのようにプラスチドの分化・機能状態を感知して,核にRSを伝達するのか,全く明らかではなかった。
そこで研究グループは,GUN1変異株および過剰発現株の解析を行ない,GUN1がヘムなどのテトラピロール代謝を調節することを見出した。さらにGUN1が直接ヘムと結合できること,および,フェロキラターゼ1活性を活性化できることを発見した。
以上のことから,GUN1がRSとして機能するヘムの合成および伝達を制御することが初めて明らかになった。この成果は40年以上の間,謎とされてきた,葉緑体から核へのシグナル伝達の機能を明らかにする第一歩になるもので,農産物やバイオマスの生産向上や安定化につながることが期待されるとしている。