東京大学,産業技術総合研究所,理化学研究所の研究グループは,有機物質においてドメインウォールと呼ばれるトポロジカル励起が極めて高い電気伝導を生み出し,新しい電気伝導機構を与えることを明らかにした(ニュースリリース)。
TTF-CAと呼ばれる有機結晶は,加圧することで中性の絶縁体からイオン性の絶縁体に転移するが,共に絶縁体でありながら移り変わる際に観測される金属並みに高い電気伝導の起源が長年問題となっていた。
初めに研究グループはTTF-CAの4端子電気抵抗測定を相図上の広い温度,圧力範囲で行ない,クロスオーバー領域で金属並みに高い電気伝導が起こることを検証した。
中性相,イオン性相ともに絶縁相であるにもかかわらず,その境界で高い電気伝導が起こることは従来の電子による伝導では現象が説明できない。さらに電気伝導度の異方性を調べたところ,このクロスオーバー領域ではTTFとCAが積層する1次元方向に特に電気が流れることが明らかになった。これらの結果はまさにドメインウォールの存在を支持する結果だという。
より定量的な議論をするために研究グループはクロスオーバー領域でさらに細かい圧力制御のもと4端子電気抵抗測定を行なった。得られたデータを解析したところ,クロスオーバー領域では1個の電子が励起するよりも1桁も小さな励起エネルギーで電気が流れていることが示された。
電気は電子によって運ばれることから,本来この結果は奇妙なことだが,1電子励起よりも低い励起エネルギーこそが予言されていたドメインウォールの特徴であり,さらにその値も理論的に予言されていたものに近い値となっていた。
これらの結果から中性-イオン性相境界での特異な電気伝導がドメインウォールによるものであることが明らかになった。
しかしドメインウォールが定常的に流れるためには,スピンソリトンと呼ばれるスピンを持った別のトポロジカル励起が必要であることも理論的に示唆されていた。そこでNMR測定によって磁性の圧力依存性を調べたところ,電気伝導と磁性が相関を持って発現していることが示され,ドメインウォールの運動に伴ってスピンソリトンが流れていることが明らかになった。
一般的に電気伝導の担い手は電子であることが知られているが,電荷,スピン,格子が絡み合った今回の物質中ではトポロジカル励起の形で電気が運ばれ,それは電子とは全く異なった電気伝導機構によるものであることを明らかした。
この結果は電気のみでなく,近年着目されている熱電効果や熱伝導といった輸送特性でも興味深い現象につながることが期待されるとしている。