物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは,多数の金属ナノワイヤーからなるニューロモルフィックネットワーク材料を作製し,「記憶」「学習」「忘却」さらに「覚醒」「鎮静」など人間の脳特有の高次機能に似た特性が,材料の電気特性として発現することを見出し,その起源を明らかにした(ニュースリリース)。
今回,研究グループは,1nm程度のポリマー絶縁体(PVP)被覆を施した銀(Ag)ナノワイヤーを集積して,複雑なネットワークを組み上げた。
このネットワーク中では,ナノワイヤーとナノワイヤーとが接触する「接点」が「シナプス的に動作する可変抵抗素子(シナプス素子)」として働くため,多数のシナプス素子が複雑に接続されることとなり,神経細胞網を模倣した「ニューロモルフィックネットワーク」が出来上がる。
このニューロモルフィックネットワークに電圧を印加して電流を流したところ,あたかも材料が試行錯誤しているかのように,より適切な(低消費電力で電流を流せる)通電経路を探索していく様子が観測された。
研究グループは,通電経路の形成,維持,解消などの過程を,電流の時間変化として計測し,それらの過程が常に揺らぎつつ進行することを見出した。
このような,通電経路の形成,維持,解消が「脳の学習,記憶,忘却」に,揺らぎの変化は「脳の覚醒,鎮静」に似ている。これら脳機能模倣とも言えるニューロモルフィック材料の特性は,ニューロモルフィックネットワーク中で多数のシナプス素子の抵抗が連携しつつ最適化していく自発的・創発的現象に起因することを明らかにした。
現在,研究グループはニューロモルフィックネットワーク材料を特徴づける創発性・自発性を活かした脳型メモリの開発に取り組んでいる。例えば,現在のコンピューターが「時間と電力を使ってでも最適な解を導く」正確無比なシステムであるのに対し,「真に最適ではなくとも許容範囲内の判断を迅速に提案する」機能を備えたメモリの実現を目指しているという。
研究グループはこの研究成果が,脳型の情報処理とは何かを「解き明かす」ための,重要な一歩になるとしている。