農工大,電子移動を裏付ける手法を開発

東京農工大学の研究グループは,「電子」の移動を調べる新しい手法を開発した(ニュースリリース)。

有機合成化学は,医薬品・農薬・合成染料・香料などの化学工業製品を作る上で欠かせない。現行の製造プロセスにおいては,化石燃料によって供給される熱エネルギーを利用することが主流だが,近年では,環境に優しい持続可能なプロセスの実現を目指して,熱エネルギーに代わり電気や光などの再生可能エネルギーを活用した化学反応の開発に注目が集まっている。

電気や光を用いる手法では,マイナスの電荷を持つ電子の電子移動によって,常温常圧で化学反応を引き起こすことができる。電子は直接目で見ることはできないが,電子がどこからどこへ移動するのかを考えることで,これから起こる化学反応を予測したり,あるいは新しい化学反応を設計したりできるようになる。

研究グループはこれまで,有機合成化学の観点から電子移動を考える「有機電子移動化学」の研究に取り組んできた。中でも,シクロブタンと呼ばれる四角形の構造を作る化学反応において,僅かな電子移動の違いによって得られる生成物が全く異なるものになることを見出している。

研究では,この反応を「探針(プローブ)」として利用することによって,電子移動を調べる新しい手法を開発した。反応によって得られた生成物を分析することで,電子移動が起こったのか,起こらなかったのかを判定することができる。つまり,これまで「理論的な推論」の域に留まっていた電子移動を,実験化学的ならびに計算化学的に裏付けることに成功した。

有機合成化学では,核磁気共鳴法に代表される分析技術を用いることで反応前後の分子の構造をはっきりと決めることができる。一方で,出発原料から生成物へと至る過程(反応機構)はブラックボックスであることが多く,反応機構を理解するためには特殊な装置を用いた解析が必要。

今回のような有機電子移動化学の研究は,電気や光を用いた新たな物質生産プロセスの開発に繋がるだけでなく,反応機構の理解においても今後大きな役割を果たすことが期待されるとしている。

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