東京大学の研究グループは,レポーター遺伝子の1つであるLacZをもつ細胞(LacZ発現細胞)のみを特異的に死滅させる新規光増感剤を独自の分子設計に基づき開発した(ニュースリリース)。
これまでに,LacZ発現細胞を標的とした光増感剤が開発されてきたが,酵素反応生成物がLacZ発現細胞から漏れ出てしまうため,標的細胞と非標的細胞が近接している場合には,非標的細胞の細胞死も誘導されてしまうという課題があった。
今回,研究グループはLacZ発現細胞の選択的な細胞死を誘導する光増感剤「SPiDER-killer-βGal」を開発した。
この光増感剤は,β-ガラクトシダーゼとの反応により初めて活性酸素種を産生可能な光増感剤構造になると同時に,細胞内の求核基をもつタンパク質などの分子に結合するため,細胞外へ漏出せず,標的細胞選択的な細胞死誘導が可能。
実際に,この光増感剤を,LacZを発現している細胞と発現していない細胞を共培養した系に使用し,光照射を行なって観察したところ,LacZ発現細胞のみでアポトーシスの指標となる形態変化が認められ,細胞死が生じることが確認された。
このとき,LacZ発現細胞の近傍に存在する細胞では細胞死はみられず,細胞死が1細胞レベルで生じていることが確認された。
さらに,この光増感剤が生体内においても1細胞レベルでの標的選択的な細胞死誘導が可能か検証するため,ショウジョウバエのサナギに対してこの光増感剤を投与し,光照射を行なって顕微鏡で観察した。
その結果,生体内においてもLacZ発現細胞が選択的に死滅していると同時に,死滅している細胞に隣接した細胞では細胞死は認められず,1細胞レベルでの細胞死誘導が生じたことが確認されたという。
研究グループは,この光増感剤を用いることで,今後生命現象の解明やがん治療に役立つことが期待できるとしている。