東北大学と高輝度光科学研究センターの研究グループは,X線反射率法と呼ばれる方法と,X線用の回折格子を用いた新しいイメージング法(X線回折格子干渉法)を組み合わせることにより,画像検出器の空間分解能を1000~10000倍上回るnmオーダーの構造情報を非破壊で定量的に取得することに成功した(ニュースリリース)。
レントゲン撮影に代表される透過X線イメージングの空間分解能は,画像検出器の空間分解能で決まり,空間分解能よりも高いスケールの構造情報は取得できない。
X線回折格子干渉法は,物体をX線が透過したときのX線の位相のシフトを利用した高感度なイメージング法で,医療診断から非破壊検査に至るさまざまな応用研究が展開されている。また,1回の撮影で複数の独立な画像(吸収像(レントゲン写真に対応),微分位相像,ビジビリティコントラスト像)を取得できるマルチモーダルなイメージング法としても注目を集めている。
研究グループは,X線回折格子干渉法で同時に取得できる3枚の画像のうち,特にビジビリティコントラスト像に注目し,コントラストを定量的に解析することにより,画像検出器の各画素において構造パラメータをnmオーダーで評価する方法を開発した。実験はSPring-8のビームラインで行なった。
実験では,試料表面にシート状のビームを入射して,反射ビームに対してX線回折格子干渉計法を適用することにより,試料表面に垂直な方向だけでなく,平行な方向の構造情報の取得が可能になる。デモンストレーションでは,深さ約10nm,周期800nmの酸化シリコンの格子パターンを表面に形成したSiウエハを試料として用いた。
その結果,破壊検査である透過電子顕微鏡や,微小角入射小角X線散乱や原子間力顕微鏡など,他の方法による評価と比べてもこの手法が信頼性の高い結果が得られることを示した。
今回の研究成果は,シート状のX線ビームを利用して試料の垂直・水平構造情報を同時に取得することを可能にする方法。従来のX線位相コントラストイメージングと比較しても,通常は10~100μmオーダーの空間分解能であるのに対して,今回の研究ではそれをはるかに上回るnmオーダーで構造パラメータが決定できた。
また,今回の研究で用いたX線回折格子干渉法は,白色放射光のような連続X線の利用も可能で,10μsオーダーのイメージング,msオーダーのX線トモグラフィも実現できている。研究グループは,今回開発した方法がさらに発展すれば,表面・界面のダイナミクスの高速観察などさまざまな展開が期待できるとしている。