市大ら,レーザーで乱流の普遍則を観測

大阪市立大学,東京大学,米Yale大学,英Oxford大学,Cambridge大学らの研究グループは,極低温状態でボース・アインシュタイン凝縮を起こした量子流体における乱流の運動エネルギー輸送の測定に初めて成功し,乱流の普遍則を実験で観測した(ニュースリリース)。

乱流を理解するために,さまざまな分野で膨大な研究が行なわれてきたが,まだ十分な解明に至っていない。ロシアの数学者Kolmogorovは1941年,乱流現象を理解するために重要な鍵となっているのが,異なるスケール間における運動エネルギーの輸送であると指摘し,近代における乱流研究の骨子となっている。

今回の研究では,極低温状態でボース・アインシュタイン凝縮したルビジウムの原子気体を用いて,乱流のエネルギー輸送の詳細を実験・理論の両側面から明らかにした。

一般に流れの性質は速度場の相関関数で特徴づけられ,乱流中ではべき乗則が現れることが知られている。この法則の背後には,波数に依存しないエネルギー輸送が物理の本質としてある。このため,エネルギー輸送は乱流の性質を深く理解する上で非常に重要な位置を占めている。

研究グループは,量子流体の乱流にレーザー光を照射することで,エネルギー輸送の直接測定に成功した。根幹となるアイデアは,ルビジウムの原子気体に照射するレーザー光を精密に操作して,特定の波数を持つ粒子を散逸させる技術。

これにより,波数空間におけるエネルギー輸送を直接測定して,Kolmogorovが予言した波数に依存しないエネルギー輸送を観測した。

具体的には,多粒子系が箱に閉じ込められているボース・アインシュタイン凝縮をおこした粒子は,低い波数(長い波長)を持っているが,箱を振動させると乱流が発生する。その結果,低い波数(長い波長)から高い波数(短い波長)へとエネルギーが輸送される。

高い波数(短い波長)の粒子はエネルギーが高いため,ポテンシャルの壁を超えることができる。この飛び出る粒子の個数を測定することで,エネルギー輸送の測定に成功した。

今回,長年の課題であったエネルギー輸送の直接測定に成功した。研究グループはこれを起点に,今後は,極低温冷却原子気体を用いて乱流の深い洞察を探索する道を開拓していくとしている。

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