横浜市立大学と東洋大学の研究グループは,天然物からの蛍光性炭素量子ドットの簡易合成に成功した(ニュースリリース)。
量子ドットは,さまざまな用途に有望な材料として期待されているが,原料コストや煩雑な製造プロセスに加え,Cd,Se,Pbなどの有害元素の環境や人体への影響も懸念されている。
これに対し,近年,代替材料として炭素量子ドットが次世代の蛍光体として注目を集めている。安価で安全な蛍光体材料としてLEDがより身近なものになる可能性がある。さらに,生体との相溶性が高く,安全な材料であることから,バイオイメージング,タンパク質分析,細胞のトラッキングなどの生物医学的な応用も期待できる。
これまでにも簡便な手法として,天然物の微細化技術による炭素量子ドットの作製が試みられてきたが,用いられる天然物原料や生成された炭素量子ドットの不安定性・再現性や,合成における前処理・後処理といった煩雑な多段階プロセスなどの課題があった。
今回研究グループは,植物の種を500℃で3時間加熱分解させるのみの簡便な方法によって,優れた光学特性を示す均一で結晶性の高い安定的な炭素量子ドットの合成に成功した。得られた炭素量子ドットは,平均直径4nmの均一なサイズを持ち,電子顕微鏡で格子縞が明確に観察できるような高い結晶性を示した。
また,この炭素量子ドットは,水溶液中で紫外線照射下において波長420nmの強い青色発光を示し,その耐褪色性も極めて優れていることがわかった。
この炭素量子ドットは均一で安定なマイナスの電荷を帯びており,表面は官能基に覆われている,いわゆるコアシェル構造をもつことが推測できるという。これらの構造上の特徴から,水溶液中で1年以上にわたって高分散性と強い発光特性が維持され,極めて安定性の高い炭素量子ドットが得られていることがわかった。
炭素量子ドットの発光メカニズムとしては,分子発光をはじめとして窒素や酸素の吸着による表面準位が関連したようないくつかの発光メカニズムが提案されているが,今回の研究では発光の励起波長依存性やpH依存性などのデータから機械学習を用いた発光メカニズムの解明に向けて新たなアプローチも提案したという。
研究グループは今後,実用化に向け発光効率の向上や薄膜化などを進めることによって,青色LEDなどの電子デバイスの作製やバイオイメージングなどへの応用展開を目指すとしている。