京都大学,量子科学技術研究開発機構の研究グループは,単色X線(単一エネルギーをもつX線)を,ガドリニウムを多孔性シリカナノ粒子により取り込ませたがんの塊に照射することで,その塊がばらばらになり消滅することを明らかにした(ニュースリリース)。
現在,放射線治療はがん治療の主要な方法として広く使われているが,既存のX線は,幅広い波長が含まれているため,皮膚表面でX線が吸収されてしまい,がん組織に届きにくいという課題があった。
研究グループは,ピエール・オージェらが報告した原理を利用し,がん細胞を死滅させることを目指した。この原理は,金やガドリニウムなどの高Z元素にX線を照射すると電子が軌道からたたき出されるというもの(オージェ効果)。
放出された電子はDNAへの損傷効果が高く,細胞を殺すことができるが,金やガドリニウムなどの高Z元素を効果的にがん細胞の中へ送り込む仕組みが確立できていなかった。
研究グループは,独自に開発した多孔性シリカナノ粒子を用いて,ガドリニウムを卵巣がんのスフェロイド(がん細胞が3次元的に増殖することにより得られるがんのかたまり)の内部に送り込むことに成功した。
また,大型放射光施設SPring-8の量研専用ビームラインにおいて,実験室系の装置ではその制御が困難であったガドリニウムのK殻吸収端となる50.25KeVのエネルギーをもつ単色X線を卵巣がんの塊に対して照射した。
その結果,がんの塊をバラバラにしてさらに消滅させることに成功した。この実験により,単色X線とガドリニウムを取り込ませた多孔性ナノ粒子の組み合わせが,新規の放射線治療に有効であることを明らかにしたという。
研究グループは,アイセムスで多孔性シリカナノ粒子を開発し,がん治療への応用を目指してきた。今回,この多孔性シリカナノ粒子にガドリニウムを含有させ,がんの塊であるスフェロイドの深部にまでガドリニウムを送り込むことに成功した。
ナノ粒子の分布を調べたところ,がん細胞の中に取り込まれ,DNAのある細胞核の近傍に位置することが明らかになった。つまり,ガドリニウムをDNAの近くに高濃度で局在させることができた。
研究グループは,今回の単色X線と適切な元素選択の組み合わせにより,新たな放射線治療の可能性が拓かれることが期待できるとしている。