東大ら,テラヘルツで微結晶の移動度を予測

東京大学,産業技術総合研究所,物質・材料研究機構の研究グループは,高移動度有機半導体のプロトタイプのルブレンの微結晶試料にポンプ―プローブ分光法を適用し,単結晶試料で得られる値とほぼ等しい,物質に固有の移動度を評価した(ニュースリリース)。

近年,高移動度有機半導体の開発が盛んに行なわれている。有機半導体の移動度は,通常その単結晶を用いたFETの伝達特性から評価するが,新たに合成される試料は多くの場合粉末状の微結晶のため,微結晶試料を使って移動度を評価できれば,高移動度有機半導体の物質探索を加速できる。

微結晶試料から物質に固有の移動度を評価するために,研究グループは,光キャリアの移動度を反映するテラヘルツ領域の光学伝導度スペクトルに注目した。具体的には,高移動度有機半導体のプロトタイプであるルブレンの微結晶試料に光ポンプ-テラヘルツプローブ分光を適用することによって,光キャリア(正のキャリアであるホール)に由来する光学伝導度スペクトルを測定した。

単結晶試料の場合には,自由に運動するキャリアに特有のスペクトルが得られる。これをドルーデモデル(電場に対する自由キャリアの挙動を表すモデル)を用いて解析すると,単結晶FETの伝達特性から評価されている移動度と同様な高い移動度の値(29cm2/Vs)が得られた。一方,微結晶試料の場合は,キャリアは結晶粒界における散乱の影響を受けるため,単結晶試料の場合とはスペクトルが大きく異なる。

このスペクトルを,散乱の寄与を取り入れたドルーデ・スミスモデル(ドルーデモデルに外的な後方散乱の寄与を取り入れたモデル)を用いて解析することにより,単結晶試料で得られた上記の値と同様に高い移動度の値(24cm2/Vs)が得られた。

さらにこの手法の有効性を検証するために,ルブレンと並んで高移動度有機半導体として知られているC10-DNTTの微結晶試料において同様な測定と解析を行なった。

その結果,良質な単結晶FETの伝達特性から得られた値と近い移動度(17cm2/Vs)を見積もった。また,微結晶試料における解析結果を用いると,物質に固有の移動度だけでなく,結晶粒界における散乱の影響を含んだ見かけ上の移動度も求めることができる。

後者の値は,微結晶薄膜のFETで評価された移動度と同等の値となり,単結晶FETと微結晶薄膜FETの両者で測定される移動度の値を予測できることがわかった。

研究グループは今後,この手法は,良質な単結晶FETが得られない有機半導体において,その物質に固有の移動度の予測に活用できるとしている。

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