分子研ら,スピントロニクスでスピン液晶状態を解明

分子科学研究所(分子研),茨城大学,高エネルギー加速器研究機構,東京大学の研究グループは,スピントロニクス分野のスピン流による熱電効果を活用し,輸送測定でスピンネマティック(スピン液晶)磁性体に特有のマグノン分子の兆候を検出することに初めて成功した(ニュースリリース)。

今回,磁石版の液晶ともいうべきスピンネマティック(スピン液晶)の性質を持つ磁性絶縁体LiCuVO4のスピンゼーベック効果を調べた。スピンネマティック磁性体は21世紀になってから活発に研究されてきた新しい磁性体で,未解明な要素が多く残されている。

先行研究では,低温かつ強磁場でLiCuVO4の磁気的な性質を注意深く調べることで,2個のマグノンが結合した,いわばマグノン分子が出現することが報告されている。

しかし,スピンネマティック磁性体の特性を実験で検証することは,通常の磁石に比べて非常に難しいことが知られ,特にマグノンとマグノン分子との違いを実験で検出するのは一般的に困難で,これまではNMR(核磁気共鳴法)や中性子散乱といった限られた実験手法でマグノン分子の兆候が見出されているのみだった。

今回研究グループは,LiCuVO4におけるスピンゼーベック効果の観測をLiCuVO4/Pt(白金)接合構造で試みた。Ptは逆スピンホール効果の大きな典型物質で,LiCuVO4からPtへの注入スピン流を電圧信号として検出することを可能にする。

観測の結果,磁場をゼロから大きくすると測定電圧も徐々に増大するが,磁場をさらに大きくすると測定電圧が減少することを見出した。これはLiCuVO4からPtへの注入スピン流量が高磁場で減少していることを示している。先行研究により,マグノン分子は磁場を大きくするとともに安定化することが予言されており,電圧の減少はまさにマグノン分子の出現を示唆していると考えられる。

これらの実験結果と理論予想を踏まえ,研究グループはマグノン分子の存在を仮定した場合のスピン流を理論的に計算し,測定電圧の磁場依存性を再現することに成功した。これは磁場印加で生じた測定電圧の減少はマグノン分子の形成に由来すると結論づけることができるという。

研究グループは今回の研究の成果は,未解明な部分が多いスピンネマティック磁性体の輸送特性を明らかにした初めての実験で,スピントロニクスの方法論が応用面ばかりでなく,磁性を中心とする物性の基礎研究においても顕著な力を発揮することを示すとしている。

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