中部大学の研究グループは,自動車やビルの窓を10分の1近くまで軽くできる新しい薄膜材料を開発した(ニュースリリース)。
現在,自動車の窓にはほとんど無機ガラスが使われている。一般的な自動車の場合,窓の重さは車体の約5%を占める。この窓の重さを約10分の1にできれば,自動車の電動化に伴う車両の軽量化により大きく寄与する。
ガラス表面の硬さを高めるため,表面に硬いCeO2を成膜する研究が行なわれている。しかしCeO2は硬いが脆いため,変形によってクラックが多数発生する問題がある。
今回,研究グループはフッ素樹脂のPTFEを5~15体積%混合したCeO2の薄膜素材と成膜技術を開発した。PTFEを混合することで紫外光を80%以上遮蔽しガラスの3倍の方さを維持したまま,柔軟性があり曲げによるクラック発生を大幅に改善出来ると考えた。
実験では,ガラスの表面にアルゴンイオンを用いるスパッタリング法で膜厚100~200nmのCeO2-PTFE膜を成膜したところ,ナノインデンテーション法(またはナノインデンター)で測定した表面の硬さは約6000N/mm2から約17000N/mm2と約3倍に向上した。成膜後も水をはじく性質(撥水性)は高く,指標である水滴の接触角は90度以上だった。
また可視光の透過率は80%以上で,有害な紫外光の遮蔽率は80%以上と高く,ともに自動車の窓に求められる仕様を上回ったという。
さらに,ガラスに続きプラスチックシートに成膜する実験も行なった。材料にはエンジニアリングプラスチックのポリカーボネート(PC)や汎用樹脂のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。それぞれに成膜したところ,PCの硬さは約180N/mm2から約1600N/mm2に,PETでは約300N/mm2から約1300N/mm2と向上した。
CeO2-PTFE膜を成膜したPC樹脂は自動車用耐候試験条件による劣化が全くないことも確認した。高い可視光の透過率と紫外光遮蔽率を併せ持つCeO2-PTFE膜は自動車だけでなくビルの窓にも適用できる。
プラスチック表面の硬さを成膜したガラスと同等まで高められれば,ガラスの数十倍高い衝撃吸収性を生かし,風によるたわみの影響を考慮しても窓の厚さを約5分の1にできるという。研究グループは,プラスチックの比重はガラスの約2分の1であることから,これらの条件を掛け合わせると窓は10分の1近くまで軽くなり,大幅な省エネルギーにつながるとしている。