東大ら,SPring-8で六方晶鉄水素化物の形成を発見

東京大学,量子科学技術研究開発機構,日本原子力研究開発機構,総合科学研究機構,東北大学の研究グループは,超高圧中性子回折装置PLANETならびに大型放射光施設SPring-8に設置されているキュービックアンビル型高温高圧発生装置を用いて,六方晶の鉄格子構造を持つ鉄水素化物が高温高圧下で形成されることを発見した(ニュースリリース)。

鉄水素化物は金属水素化物の典型物質として,また,地球内部での水素リザーバーの候補として半世紀にわたって研究されてきた。鉄水素化物は高圧下で安定に存在するため,2000℃~20万気圧の高温高圧領域で温度・圧力相図や結晶構造が詳しく調べられ,立方晶構造と二重六方晶構造を持つ水素化物の存在が報告されている。しかし,同じ温度圧力領域で純鉄の安定構造である六方晶構造を持つ鉄水素化物は観測されていなかった。

研究グループは,少量の水素との反応によって六方晶水素化物が合成されるのではないかと推測し,放射光X線回折実験と中性子回折実験を併用して六方晶鉄水素化物の探索と結晶構造測定を実施した。

放射光X線回折実験では,鉄水素化物(FeHx)の水素組成比xが最大でも0.6以下に抑えられるように水素量を制御しながら790℃(1063K),7万気圧で立方晶水素化物を合成した後,徐々に温度を下げたところ,520℃付近(797K)で六方晶水素化物への変換が観測された。さらに160℃(434K)付近で,その六方晶の水素化物が純鉄と二重六方晶水素化物へ分解するのが観測された。

また,鉄中の水素組成と水素原子の占有サイトを決定するために鉄重水素化物を用いて中性子回折実験を実施した。400℃(673K),5万気圧,及び300℃(573K),4万気圧で測定された回折プロファイルを精密解析した結果,この六方晶鉄水素化物の水素組成はx=0.48で,鉄に溶解した重水素原子は6個の鉄原子で囲まれた八面体サイトを部分的に占有していることがわかった。

鉄水素化物は物質科学および地球科学の主要な研究対象として長年にわたって研究されていたが、六方晶鉄水素化物の存在およびその詳細な結晶構造と水素溶解特性が報告されたのは初めてという。研究グループは今後,地球内部に匹敵する温度圧力領域での結晶構造と水素溶解特性を調べることにより,六方晶鉄水素化物の役割が解明されるとしている。

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