JASRIら,XFELで超高速の分子振動を高精度観測

高輝度光科学研究センター(JASRI),理化学研究所,高エネルギー加速器研究機構,独ヨーロピアンXFELらの研究グループは,X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAを使い,光を吸収した金属錯体分子の核波束振動を原子レベルの高い時間・空間分解能で追跡することに成功した(ニュースリリース)。

金属錯体が光を吸収すると,通常よりエネルギーの高い状態に励起される。励起された金属錯体は,ポテンシャルエネルギー面上を移動しながら(構造や電子状態を変化させながら)安定化してゆき,場合によっては化学反応が進行する。この緩和の過程には,電荷移動,電子スピンの反転,発光,核波束振動などの基本的かつ重要な物理現象が含まれている。

金属錯体を利用して光触媒や人工光合成を開発し,その光機能性を高めるためには,超高速で進行するこれらの複雑な現象を理解して動作機構を解明することが必要不可欠。金属錯体の光反応中の構造変化は,一般的に10~100兆分の1秒の極短時間の間に起こり,かつ1000億分の1mオーダーの微小なものであるため,超高速かつ高精度に構造を評価することが求められてきた。

光増感剤として期待される銅(I)フェナントロリン錯体は光を吸収すると正四面体型から平面型へ構造が変化することが知られている。研究グループは,核波束振動がどのようにこの構造変化に関連しているのかをXFELによる時間分解X線吸収分光法を使って調べた。

実験では,まず,銅(I)フェナントロリン錯体に可視レーザー光を照射し,光反応を開始した。ある程度時間が経った後にXFELを照射し,X線吸収スペクトルを計測した。2つの光を照射するタイミングを制御しながら計測を続け,結果を2つの光の時間差の順に並べることで「分子動画」を作成した。

その結果,光反応の進行中に3つのタイプの核波束振動があることを発見した。1つは分子中の銅原子と窒素原子間の4つの結合が足並みを揃えて伸縮を繰り返す動き(対称伸縮振動)で,その振幅は1000億分の2m程度であると評価した。残りの2つは,銅原子と窒素原子間の結合の角度が変化する動き(変角振動)だった。

観測された変角振動は,銅(I)フェナントロリン錯体の正四面体型から平面型への構造変化が起こる前の約0.2ピコ秒に消失し,この構造変化に強く関連していることがわかった。一方で対称伸縮振動は,指数関数に沿った単純な強度の減少を示しており,銅(I)フェナントロリン錯体の正四面体型から平面型への構造変化にあまり強い関連がないことがわかった。

今回の研究により,原子レベルの高い時間・空間分解能で光反応中の分子構造を追跡できた。研究グループはこのような高精度の観測手法は,分子のどのような動きが光反応を駆動しているのかを直接観測して理解することを可能にするとしている。

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