大阪大学と産業技術総合研究所が大阪大学内に設置した「産総研・阪大 先端フォトニクス・バイオセンシングオープンイノベーションラボラトリ(PhotoBIO-OIL)」は,世界最薄・最軽量の生体計測用の差動増幅回路の開発に成功した(ニュースリリース)。
世界的な少子高齢化を迎える現代において,有機トランジスタに代表されるフレキシブルエレクトロニクスの医療やヘルスケア分野への応用・展開が盛んに進められている。
その中でも,有機トランジスタを用いたフレキシブルな増幅回路は,装着性に優れているため,生体の微弱な信号を常時計測するセンサーとして研究開発されている。ところが,これまでの有機増幅回路は主にシングルエンド型の構成をしており,測定したい生体信号とそれ以外の外乱ノイズを区別することができず,低ノイズでの計測は困難だった。
今回研究グループは,有機トランジスタという柔軟な電子素子を厚さ1μmの薄くて柔らかいプラスチックフィルム上に集積することで,装着感のないフレキシブル生体計測用回路を開発した。くしゃくしゃに丸めても壊れず,人の肌に違和感なく貼り付けることができるという。
さらに,回路内における有機トランジスタの電流ばらつきを2%以下にまで低減する補償技術を開発することで,ノイズ除去機能を備えたフレキシブル有機差動増幅回路の開発に成功した。従来のシングルエンド型の増幅回路と比較すると,今回のフレキシブル差動増幅回路は,微弱な生体電位を増幅可能なだけではなく,外乱ノイズを取り除くことができる。実際に人の生体計測に用いることで,重要な生体信号である心電信号のリアルタイム・低ノイズ計測を実証した。
具体的には,この柔らかい差動増幅回路を用いた心電信号の計測において,心電を25倍に増幅しながら,ノイズを7分の1以下まで除去することができるという。例えば,心電計測を行ないながら,外部の電源などが放つノイズや歩行に伴う大きな体動ノイズを除去できることを実証した。
研究グループは今回の研究成果によって,日常生活において心電信号に限らないさまざまな微弱生体信号(脳波や胎児心電など)を機器の装着感なく正確にモニタリングすることが可能になるとしている。