慶應義塾大学と大阪大学,ロート製薬の研究グループは,クチナシ由来の色素成分「クロセチン」が小児の眼軸長(角膜から網膜までの長さ)伸長,屈折度数の近視化を有意に抑制することを確認した(ニュースリリース)。
近年,全世界で近視の有病率が増加している。近視が進行し強度近視になると失明の原因になる病的近視になるリスクが急激に高くなるため,強度近視を防ぐ方法,特に近視が進みやすい小児期に有効なアプローチが望まれている。
近視の主な原因として,眼の奥ゆき(眼軸長)が過剰に長くなり,網膜上で焦点が合わなくなることが知られている。研究グループの先行研究により,クロセチンは,マウスにおいて近視進行抑制に関連する遺伝子の1つである「EGR-1」の発現を高める効果があること,さらに,近視になるよう誘導されたマウスモデルにクロセチンを投与すると,近視の強さを表す「眼軸長の伸長」と「屈折度数の変化」が有意に抑制されることがわかっている。
今回研究グループは,軽度近視の小児(6歳以上12歳以下)69名を「クロセチン内服群」と「プラセボ群」の2群に無作為に分け,24週間経過観察し,屈折度数及び眼軸長の変化量を比較する無作為2重盲検試験を行なった。
その結果,クロセチン内服群はプラセボ群に比べ,眼軸長の伸長が14%抑制されるとともに,屈折度数の低下が20%抑制され,近視進行を有意(P<0.05)に抑制する効果があることが確認された。
さらに,クロセチンの脈絡膜(網膜の外側にある膜で網膜に栄養を与える組織)への作用を調べた。近視になるよう誘導されたマウスモデルにおいて,眼軸長が伸びて近視が強くなると,見え方(屈折)が変化するだけでなく,網膜の外側にある脈絡膜が薄くなるという現象(菲薄化)を伴うことが知られている。
今回,小児において,プラセボ群では脈絡膜の菲薄化が見られたのに対し,クロセチン投与群ではこのような脈絡膜の変化が有意(P<0.001)に抑制され,クロセチンが近視を抑制する作用機序の一端に脈絡膜の保護がある可能性が示された。
研究グループは今回の研究が,小児期の近視進行抑制ばかりでなく,強度近視への進行を将来的に防ぐ方法として,社会的に大きな意義があるものとしている。