東北大学,海洋研究開発機構,九州大学,富山大学,国立科学博物館の研究グループは,日本最古の日立鉱山不動滝鉱床の鉱石から新鉱物を発見した。また,この新鉱物は放射光X線回折実験により,新しいタイプの結晶構造と判明した(ニュースリリース)。
研究グループは,新鉱物を日立鉱山にちなみ「日立鉱」(hitachiite:Pb5Bi2Te2S6)と命名した。茨城県から新鉱物が発見されたのは初めてという。
鉱物の分類は,化学組成と結晶構造の類似性でグループ化される。発見された日立鉱の理想化学式はPb5Bi2Te2S6で,申請時,日立鉱は硫化鉱物,硫テルル蒼鉛鉱グループに分類された。現在,このグループの分類に関しては,国際鉱物学連合において再検討が進められている。
関連するいくつかの鉱物をPb-Bi-(Te+S)の三角図にプロットすると,日立鉱の発見により,化学組成が直線的な関係になる鉱物のシリーズの存在がより明確になった。
この関係性については,端成分の鉱物の結晶構造以外は未決定で,明確な結論が出せない状況だった。研究グループは,日立鉱の結晶構造を決定できれば,この問題に対し大きな前進となると考えた。
日立鉱は,重金属元素(PbとBi)を含み,かつ,極微小サイズ(最大で100μm程度)でしか見出されていないため,実験室での結晶構造の決定は困難だった。しかし,放射光単結晶X線回折実験を行なうことにより,日立鉱の結晶構造を決定することに成功,新しいタイプの結晶構造であることが判明した。
化学組成と結晶構造に基づく考察から,この鉱物のシリーズはBi2Te2S・nPbS (n=5が日立鉱)で表されることを示した。研究グループは,この発見は地球科学的見地から,鉱床の生成当時の環境の推定・制約に役立ち,さらに新規材料物質開発への寄与が期待できるとしている。