東京大学らの研究グループは,緑色蛍光を高度に発現する人工アンビセンス鎖ゲノムをもつ組換えアカバネウイルスを作出した(ニュースリリース)。
畜産業に莫大な被害を及ぼすアカバネ病の効果的な制御法の開発が期待されている。しかし,その開発に必要なアカバネウイルスの病原性発現機構はわかっていない。
アカバネウイルスは,ブニヤウイルス目ペリブニヤウイルス科に属する三分節(L, M, S)のマイナス鎖RNAをゲノムとする。研究グループは過去に,そのうちのS分節に緑色蛍光蛋白質eGFP遺伝子をプラス鎖に搭載した人工アンビセンス鎖をもつ組換えウイルスをリバースジェネティクス法により作出したところ,感染細胞内で蛍光発現を認めた。
しかし,その蛍光はウイルスの感染にやや遅れて発現するため,動物での生体内イメージング(in vivo imaging)解析には適さなかった。
今回の研究では,この蛍光発現のタイムラグを改善するため,プラス鎖に搭載したeGFP遺伝子の転写プロモーターを含むゲノムS分節の5’側非翻訳領域に欠損変異をもつ組換えウイルスを作出,解析したところ,83塩基の欠損変異をもつ変異体(eGFP/38-AKAV)において,培養細胞上の蛍光発現がタイムラグなしに高度に増強することを見つけた。さらに,ウイルスを継代しても蛍光発現は安定に維持されることがわかったという。
次に,組換えウイルスeGFP/38-AKAVの病原性をマウスモデルで調べたこところ,野生型ウイルスと同等以上の致死性が見られた。感染マウスの中枢神経組織(大脳,小脳,延髄など)でも,野生型ウイルスと同等量のウイルス抗原が認められた。一方,実体蛍光顕微鏡で観察することで,蛍光で示される各脳組織におけるウイルス感染部位の局在と分布が明らかになった。
研究グループは今回の研究により,蛍光を高度に発現する組換えウイルスeGFP/38-AKAVが,ウシなどの動物におけるウイルス動態の生体内イメージング解析に応用できることが示されたとし,この組換えウイルスはアカバネウイルスの病原性解析や新規ワクチン開発などアカバネ病制御のための研究に貢献するとしている。