東京工業大学らの研究グループは,原子スイッチの電気特性を精密計測することで,スイッチ内部に埋もれていて,これまで確認できなかった金属のフィラメントを直接観測することに初めて成功した(ニュースリリース)。
金属・イオン伝導体・金属の3層構造の原子スイッチは,金属フィラメントの形成と破断によって動作するため,状態保持に電源が不要であり,不揮発性のデバイスとしても注目を集めている。動作機構としては,原子スイッチに電圧を与えると電気化学反応によりイオン伝導体内に金属のフィラメントが形成されてスイッチがオンになること,逆の電圧をかけると,フィラメントが破断しスイッチがオフになることが知られている。
しかし,このフィラメントはスイッチの動作機構に関わっていることはわかっているものの,原子スイッチのイオン伝導体層の内部に形成されていて直接観測できないため,金属単体なのか,電気を流す化合物なのかは不明だった。
今回の研究では,銀・硫化銀・白金3層構造の原子スイッチを用いて,極低温においてオン状態にある原子スイッチの電流―電圧特性を計測することで,振動スペクトルを決定した。
その結果,この3層構造の原子スイッチでは,オン状態では銀のフィラメントが形成していることがわかった。次に,銀または銅,硫化銀または硫化銅,白金による3通りの原子スイッチで,同様にオン状態において振動スペクトルを計測した。
その結果,銅・硫化銀・白金および銀・硫化銅・白金の組み合わせでは,銀のフィラメントが形成していることがわかった。一方,銅・硫化銅・白の組み合わせでは,銅のフィラメントが形成していることがわかった。
以上の結果から,電極金属と硫化物層はいずれも,金属フィラメントを構成する金属の供給源であることがわかった。さらに,銀の方が硫化物層内を動きやすくするために,銀の金属フィラメントが形成されることを明らかにした。
研究グループは,今回得られた知見は原子スイッチの目的に合わせた最適な金属種の選択の指針になるとし,これにより,より高性能な原子スイッチの開発,応用展開につながるとしている。