理化学研究所(理研)らの国際研究グループは,2つの銀河団が衝突し始めるときに発生すると予測されていた衝撃波の存在を初めて観測した(ニュースリリース)。
約138億年前のビッグバン以降,銀河団は互いに衝突・合体を繰り返すことで成長してきたと考えられている。この衝突による放出エネルギーは銀河団の内部だけでなく,周囲の構造にも影響を与えることから,銀河団の衝突現象を理解することは宇宙の大規模構造がどのように形成されてきたのかを理解することにつながる。
これまで,衝突が進んだ段階の銀河団は多数観測されていたが,2つの銀河団の衝突の瞬間はまだ観測されていなかった。今回,研究グループは,日本のX線天文衛星「すざく」,米国のX線天文衛星「チャンドラ」,欧州のX線天文衛星「XMM-Newton」の3つのX線天文衛星と2つの電波望遠鏡による大規模な多波長観測によって,地球から約12億光年離れた場所にある衝突初期段階にある2つの銀河団を詳しく調べた。
その結果,X線観測データから2つの銀河団の中間に7000万度の高温プラズマが,約1Mpc(約326万光年)の広範囲に渡ってベルト状に存在していることを突き止めた。また,その高温領域の端で高温プラズマの温度,密度が急激に下がることがわかった。これは高温プラズマ中に衝撃波が存在していることを示しており,その方向は衝突軸に垂直であることが明らかになった。
このような衝撃波は,これまで確認されてきた衝突軸に沿った方向の衝撃波よりも広大な空間を進み,周辺の物質に大きな影響を与えると考えられる。 さらに,電波観測データから400~600kpc(1kpcは1Mpcの1,000分の1)にわたる電波放射が2つの銀河団の中間に存在することが明らかになった。この放射は高周波(短波長)電波帯域では確認できず,低周波(長波長)でのみ明るいスペクトルを持つことがわかった。
これは活動銀河核などによって一度加速されたが放射冷却などにより既にエネルギーを失った電子が,銀河団衝突によって発生した衝撃波によって再加速された結果生じたものと考えられるという。研究グループは今回の研究により,宇宙の大規模構造形成史の理解に向けた銀河団の進化過程の解明,宇宙プラズマ物理学の進展に貢献するとしている。