京大,高選択的に光学活性化合物を作製

京都大学は,天然から安価かつ大量に得られるキラル溶媒を唯一の不斉源(鏡像体のバランスの偏りの起源となる化合物)として用い,触媒的不斉合成を行なう新たな手法を開発した(ニュースリリース)。

動物や植物の内部で重要な働きをする有機化合物は多くの場合,「右手型」と「左手型」に分類され,これらは鏡像異性体と呼ばれる。鏡像異性体は生体外においては厳密に全く同じ性質―融点,沸点,屈折率など―を示すが,鏡像異性体の一方から構成されている生体中では,異なった生理活性を示す。医薬品や農薬など生体中で効果を発揮する化合物の工業生産においては,鏡像異性体の一方を選択的に合成する化学反応が必要とされている。

「触媒的不斉合成」は,この鏡像異性体の一方を選択的に得るための合成法「不斉合成」を右手型と左手型の触媒を使うことで効率的に行なおうとする研究分野。これまでの方法ではそれぞれの触媒を右手型および左手型の天然化合物を出発原料として,多段階の化学反応を経て合成する必要があり,また純粋な右手型および左手型の触媒を得ようとすると,合成の途中でこれらを高純度に精製する必要があった。

今回の研究では,オレンジの皮から得られる「(R)-リモネン」を反応溶媒として用いることで高分子(ポリ(キノキサリン-2,3-ジイル))に一方向巻きらせん構造を誘起させ,その後その高分子を触媒として利用することで高選択的に光学活性化合物が得られることを明らかにした。

さらに,低光学純度のリモネンを用いた場合でも,高分子の不斉増幅現象(低い純度の鏡像体から,高い純度の鏡像体が得られる現象)に基づいて高い不斉選択性が維持されることを見いだした。

研究グループは今回の研究により,医薬品や農薬の高効率生産のほか,コピー防止印刷やバイオ研究用試薬などの効率的な開発に応用されることが期待されるとともに,安価な生物由来資源を有効に活用する新たな指針を示すものとしている。

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