東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構が主催する量子イノベーション協創シンポジウムが『量子コンピューティング技術の将来を語る』をテーマに,この7月2日に東大生研コンベンションホールで開催された。
量子コンピューターは,従来のコンピューターの性能を遥かに凌ぐものとされており,その実現を目指す研究開発は国内外で取り組まれている。今回のシンポジウムには,量子コンピューティング技術分野をけん引している国内の研究者が登壇し,量子コンピューティング技術の基礎と課題,さらに将来について語られた。
冒頭,東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構・量子イノベーション協創センター長・特任教授の荒川泰彦氏は,シンポジウム企画の説明とともに,我が国の量子技術研究の取り組みを紹介した。この中で,荒川氏は海外の量子技術開発の動向と,日本における量子技術イノベーション戦略,量子コンピューティング技術への期待を述べた。
続く講演では,東京大学先端科学技術研究センター・教授の中村泰信氏が登壇し,『超電導量子コンピュータ技術の基礎と課題,および展望』を語った。中村(泰)氏は超電導量子ビット研究に取り組んでおり,開発のアプローチは2次元集積化で,100量子ビットを目指している。講演では研究の現状と最新の成果が語られた。
次に登壇したのは大阪大学基礎工学研究科・教授の藤井啓祐氏で,『NISQ時代の量子コンピューティング:量子-古典ハイブリッドアルゴリズム』と題し,講演を行なった。藤井氏は,超電導やイオントラップ,キャビティQED,光量子,トポロジカルといった様々な量子ビットを紹介するとともに,量子コンピューターが得意とする問題,自身の最新の研究成果について述べた。
続いて,NEC中央研究所・上席技術主幹の中村祐一氏が『量子計算機上で実行すべきアプリケーション(主に量子アニーリングにおいて)』をテーマに講演を行なった。量子コンピューターには大別すると,ゲート型とアニーリング型があるが,NECではアニーリング型を開発中という。実装ビット数は2,000ビットで,コヒーレント時間は1msを目標としている。
休憩を挟み登壇したのは,東京大学大学院工学系研究科・教授の古澤明氏で,『光量子コンピュータ技術の課題と展望』について講演した。古澤氏は光量子コンピューターの第一人者として知られているが,光量子コンピューターの仕組みから最新の研究成果について解説した。
その後,日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ・センタ長の西村信治氏による『CMOSアニーラの展開』と,富士通研究所 デジタルアニーラ・ユニット技術開発PJディレクターの竹本一矢氏による『デジタルアニーラの展開』について,それぞれ紹介された。
講演終了後,パネル討論に移り,10~30年度のコンピューティング技術の将来像,量子コンピューターの本命となるのは何か,量子技術分野における産業・イノベーション戦略について意見と議論が交わされ,シンポジウムは終了となった。
政府は,『量子技術イノベーション戦略』を策定しており,量子技術を将来の産業競争力の強化につながる重要な技術として位置づけている。プロジェクトでは文科省事業のQ-LEAPがスタートし,量子コンピューターの研究開発も進んでいる。一方で,海外ではGoogleやマイクロソフトが研究開発費を投入し,また中国も量子技術の研究開発に多額な資金を投入している。こうした中にあって,如何にして日本が量子技術でリードできるかが注目されている。