岡山大学は,は光電変換色素分子とポリエチレン薄膜を使った「岡山大学方式の人工網膜OURePTM」が,遺伝性のラットから摘出した変性網膜組織に活動電位を発生させることを証明した(ニュースリリース)。
網膜色素変性は視細胞が徐々に死滅していく遺伝性疾患。視野が次第に狭くなり,視力が低下して最終的には失明に至る。その治療方法は現状ではないが,視細胞の機能を人工物で代替する人工網膜が治療候補として有望で,2013年にはアメリカで初めて「カメラ撮像・電極アレイ方式の人工網膜」により,完全失明した患者が光覚を回復することが可能となった。
このアメリカの人工網膜は,カメラで取り込んだ映像を60画素に画像処理し,その信号を顔面皮内に植込んだ受信機に伝送し,その受信機から60本の電線を出して眼球内に挿入し,網膜近傍に植込んだ60個の電極集合体(アレイ)から電流を出力する。出力電流によって網膜内に残っている神経節細胞が刺激されてその軸索である視神経を通って後頭葉に伝わり視覚を生じることを期待できる。
この人工網膜の問題は,構造が複雑で植込みの手術手技が難しい,電極の小型化が難しく分解能が悪い(つまり見えない),広い面積の網膜を刺激することができず視野が狭い,1,000万円を超える高額医療機器であるなどの点。
これまで研究グループが開発した「色素結合薄膜型」の人工網膜(OUReP)は薄くて柔らかいので,大きなサイズ(直径10mm大)のものを丸めて小さな切開創から眼球内の網膜下へ植込むことが可能。その手術は現在すでに確立している黄斑下手術の手技で実施できる。
大きなサイズ(面積)の人工網膜なので得られる視野は広く,人工網膜表面の多数の色素分子が網膜の残存神経細胞を1つずつ刺激するので,視覚の分解能も高いと見込まれる。人工網膜の原材料も安価なので,手の届く適正な価格にて供給できるという。
今回,研究グループは,ヒトの網膜色素変性と同じ網膜変性を来すラットから変性した網膜組織を取り出し,電極シャーレに置いて神経細胞の活動電位を記録する方法を確立し,OURePを摘出したラットの変性網膜組織の上に乗せて光を当てると,神経細胞の活動電位を発生させることを初めて示した。
この研究成果はこの人工網膜の有効性に関する大きな評価点になるとし,現在,医薬品医療機器総合機構(PMDA)と薬事戦略相談を重ね,「医薬品医療機器法(旧薬事法)」に基づく医師主導治験を進めている。