東北大学と高輝度光科学研究センターは,磁気ランダムアクセスメモリ(STT-MRAM)の性能を決めるCoFeB/MgO磁気トンネル接合内のMgOの微視的な化学結合状態の変化を,角度分解硬X線光電子分光法(AR-HAXPES)により解明した(ニュースリリース)。
低消費電力性能と高性能を兼ね備えたSTT-MRAMはすでに量産が開始され,今後さらに高性能化・大容量化していくためには,極薄MgO膜の品質を向上していくことが不可欠となる。しかし従来の市販の光電子分光法では,MgO最表面における化学結合状態を測定できても,デバイス内部の深い界面の情報を得ることは困難だった。
研究グループはSPring-8において,AR-HAXPESを用いて,STT-MRAMにも用いられているCoFeB/MgO磁気トンネル接合素子(MTJ)の極薄MgO膜の微視的な状態を解明することに成功した。
今回の研究では,初めに300mmウェハプロセス装置を用いて,極薄のMgO膜(0.8nm)をCoFeB膜で挟んだ構造を作製した。ここでMgO作製プロセスによりMgOの微視的状態が変化するかを明らかにするために,極薄のMgO膜の作製プロセスを変えた2種類の構造を用意し,SPring-8にてAR-HAXPESを用いて評価したMgO膜の微視的な化学結合状態が,MgO膜の膜厚方向でどのように変化しているかを調べた。
いずれのプロセスを用いた場合でも,界面からの距離に依存して,微視的な結合状態が変化していることがわかった。この結果はこれまで膜厚方向に均質であると考えられていたMgO膜の微視的な結合状態が,実は界面からの距離に依存して変化していることを表していた。
またMgOの作製プロセスを変えた場合でも同様に微視的な結合状態が変化していることがわかった。このMgO膜の微視的な結合状態は,作製プロセスにより制御できるということを意味しているという。
研究グループは今回の研究により,絶縁膜の微視的な化学結合状態を調べる方法の確立という学術的な観点に加えて,STT-MRAMの量産技術の発展という産業界に対しての貢献も大きいものになるとしている。