物質・材料研究機構(NIMS),統計数理研究所,東京工業大学の研究グループは,独自の機械学習の解析技術を用いて高熱伝導性高分子を設計・合成し,従来の高分子に比べて約80%の熱伝導率の向上に成功した(ニュースリリース)。
近年の高分子研究により,特異的に高い熱伝導率を持つ高分子が存在することが明らかになってきた。このことから自動運転システムや次世代無線通信規格5G等,放熱性の向上が求められるエレクトロニクスデバイスの開発において,成形性に優れた高分子材料の高熱伝導化の研究に注目が集まっている。
研究グループは,世界最大の高分子データベース「PoLyInfo」と独自の機械学習アルゴリズムを組み合わせ,高熱伝導性を持つ新規高分子の設計に取り組んだ。このデータベースにはホモポリマーに限定した場合に,室温付近の熱伝導率のデータが28件(種類)しか登録されていない。
そこで,ビッグデータの入手が可能な他の物性データ(ガラス転移温度等)で機械学習のモデルを訓練し,モデルが獲得した「記憶」と少数の熱伝導率のデータを組み合わせた。その結果,熱伝導率を高精度に予測できるモデルを導くことに成功した。
これは一般に転移学習と呼ばれる解析技術。研究グループはこのモデルを用いて高い熱伝導率をターゲットに1,000種類の仮想ライブラリを作製した。その中から3種類の芳香族ポリアミドを合成し,熱伝導率0.41W/mKに達する高分子を見い出した。これは,典型的なポリアミド系高分子(無配向)と比較して最大80%の性能向上に相当する。
さらに研究グループが開発した材料は,高耐熱性や有機溶媒への溶解性,フィルム加工の容易性等,実用化のステージで求められる複数の要求特性を併せ持つことも実験的に確認できたという。今回開発した転移学習の解析技術は,材料インフォマティクスのスモールデータ問題の克服に大きく寄与することが期待できるとしている。