産業技術総合研究所(産総研)と東京大学は,アルミ系近似結晶で,バンドエンジニアリングにより半導体を創製することに成功した(ニュースリリース)。
近年,結晶で最も対称性の高い立方晶のマルチポケット半導体が注目されている。正20面体準結晶は,立方晶より2.5倍高い対称性を持っており,半導体が実現できれば,熱電性能の出力因子も2.5倍高くなる可能性がある。
今回の研究では,アルミ系正20面体準結晶の前駆物質であるアルミ系近似結晶の1つであるAl22Ir8が,過去の第一原理計算の結果,半金属的バンド構造を持つことに注目した。
研究グループはまず,その伝導帯の下端と価電子帯の上端の電子軌道の起源を調べた。その結果,伝導帯の下端は正20面体クラスターの頂点に位置するIrのd軌道からできており,価電子帯の上端は正20面体クラスター内部のAlが8個とIrが1個からなるクラスターのp様軌道からできていることがわかった。
そこでバンドギャップを開くために,d軌道のエネルギーがIrより高いRuでIrを置換し,sp軌道のエネルギーがAlより低いSiでAlの一部を置換したAl18Si5Ru8構造で第一原理計算を実行した。その結果,予想通りにバンドギャップが広がり,半導体的なバンド構造になった。
半導体になることを実験的に確かめるために,Al18Si5Ru8(Al58.1Si16.1Ru25.8)の組成近傍で試料を合成したところ,Al67.6Si8.9Ru23.5の組成で,単相の近似結晶の作製に成功した。この試料の熱電性能(ゼーベック係数,電気伝導率,熱伝導率)を測定したところ,ゼーベック係数,電気伝導率の温度依存性から,この試料が約0.15eVのバンドギャップを持つ半導体であることがわかった。
今回,第一原理計算では多くの半導体が予測されていたにも拘らず実験的には実現していなかったアルミ系近似結晶で,世界で初めて実験的に半導体を創製することに成功したという。
研究グループは,今回の研究は多くのアルミ系合金で,近似結晶の近傍組成で準結晶が生成することから,Al-Si-Ru系で半導体準結晶が見つかる可能性もあり,実現すれば固体物理学の基本的な問題の1つが解決できるとし,さらに高性能な熱電材料の開発に繋がることが期待できるとしている。