日本原子力研究開発機構(原研)と東京大学の研究グループは,磁石を伝わる磁気の波をトポロジーを用いて分類し,表面波が持つ安定性を説明することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
近年,より発熱が小さく効率の良い情報伝達の方法として,磁石を伝わる磁気の波を利用することが物質科学の分野で注目されている。
磁石は極めて小さな棒状の磁石(磁気モーメント)の集まりで,磁気モーメントが細かく動くことで磁気の波が伝わる。磁石表面を伝搬する磁気表面波は内部を伝わるものと比較して伝搬距離が大幅に長いことは古くから知られていたが,なぜ長距離を安定して伝わるのかはこれまで謎とされていた。
今回の研究では,まず磁気の波をトポロジーの応用に適した形の数式として表した。これをもとに,表面波を持たない磁石を表す数式と表面波を持つ磁石の数式をトポロジーによって区別することに成功した。
表面波を持つかどうかがトポロジーにより区別できると,標準的な数学の定理を用いてさまざまな性質を明らかにできる。例えば表面波は内部波と混じり合うことがない。このため表面波が障害物や外からの刺激によって乱されても内部に拡散していくことはできず,安定して表面に沿って伝わり続けることができる。
この研究により,トポロジーの定理から表面波が内部波と混じり合うことなく存在できることや一方通行性を持つことがわかった。
研究グループは,磁気の波は電子よりもゆっくりと動くため,情報処理に用いた場合電気回路よりも発熱を抑えることができ,省エネルギー化につながるとし,また磁気の波の振幅はさまざまな方向があるため,一定の方向が通常の電気信号よりも一度に多くの情報を伝えることができる可能性があり,今後の情報伝送技術の発展に貢献することができるとしている。