東大ら,青色光で制御するウイルスベクターを開発

東京大学と国立感染症研究所は,マグネットという光スイッチタンパク質を使い,遺伝子発現や増殖をスイッチオン・スイッチオフできる,世界初のウイルスベクター(遺伝子を細胞内に運ぶウイルス)の開発に成功した(ニュースリリース)。

ウイルスは,特定の細胞に感染し,効率良く遺伝子を発現することができ,また,人工的な遺伝子操作が比較的容易であることから,目的の遺伝子を特定の細胞へ送り込むための遺伝子導入ツールとして使われてきた。

また,ある種の癌細胞に対して強い腫瘍溶解性を示すことがわかっており,その効果と安全性を高めたウイルスベクターを用いた新しい癌治療法の開発が進められている。しかし,ウイルスベクターの意図的な取り除き法については,効果的な方法は開発されておらず,副作用のリスクがあった。

今回,研究グループは,再生医療,腫瘍溶解性治療でよく利用されているモノネガウイルスに着目し,モノネガウイルスの代表として麻疹ウイルスと狂犬病ウイルスを用いて研究を行なった。

モノネガウイルスは,Lタンパクという名前のウイルスポリメラーゼを持つ。Lタンパクは,大きく分けて5つの機能ドメイン(タンパク質の配列または構造の一部)を持っており,それらが適切な配置を取ることによってはじめて,ポリメラーゼの活性が発揮されて,ウイルスゲノムの転写や複製が起こると考えられている。

研究グループは,それら機能ドメインを繋ぎ合わせるループ構造領域(タンパク質の3次元構造のうち,折りたたまれた構造ととらず,ゆったりとした折れ曲り構造)の1つに,マグネットという光スイッチタンパク質を導入した。

今回の研究では,ウイルスの遺伝子発現を視覚的に観察するために,緑色蛍光タンパク質(Green fluorescent protein:GFP)を発現するウイルスベクターを使用した。Lタンパク内部にマグネットを持ったウイルスは,青色光の照射を受けている時にだけ,遺伝子発現が起こり,増殖することできた。

さらに研究グループは,皮下にヒトの癌細胞を移植し,腫瘍を形成させた担癌マウスを用いて,このウイルスベクターの腫瘍に対する効果を解析した。その結果,このウイルスベクターを接種して,青色光の照射を受けたマウスでのみ,急激な腫瘍の縮小が確認できたという。

研究グループは,ウイルスベクターの遺伝子発現や増殖を意図的に操作できれば,その利便性や安全性は飛躍的に向上するとし,再生医療,遺伝子治療,癌治療などの一層の発展が期待できるとしている。

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