独マックス・プランク協会の研究グループは,走査プローブ顕微鏡で用いられる探針に集束イオンビーム(FIB)でナノ加工を施し,探針の先端に発生するナノスケールの光を精密に制御する技術を開発した(ニュースリリース)。
鋭く尖った探針の先端に発生させた近接場光を使う「走査型近接場光顕微鏡」は,回折限界を超えた超高分解能イメージングの方法として知られている。探針先端に発生した近接場光を物質表面に近づけ,ナノスケールの空隙(ナノギャップ)を形成することで観察する。そのため,ナノギャップにおける近接場光の性質を精密に制御することは重要な技術的課題となっている。
プラズモニクスの分野では,電子線リソグラフィーや集束イオンビーム(FIB)を用いて金属ナノ構造を作り近接場光を制御する技術が研究される一方,ナノギャップに閉じ込められた光の性質を調べる手法の1つであるSTM発光の実験からナノギャップに発生する近接場光のスペクトルは探針先端の微小構造に強く依存することが知られていたが,そのスペクトルを任意に操ることは困難だった。
研究グループは金の探針の鋭く尖った先端に,FIBを用いて微細構造を作製すると,ファブリー・ペロー型干渉によって針先に生じる近接場光のスペクトルを変調でき,伝搬型表面プラズモンの共振器となることを示した。
非常に鋭く,かつ表面がナノスケールで平坦な探針を成形した後,針の先端から数μm離れた位置に溝構造を形成した。このナノ加工を施した探針と,原子レベルで平坦な銀の単結晶表面とでナノ接合を形成した。そして,独自に開発した高精度のフォトンSTMでSTM発光を計測し,ナノ空間に発生する近接場光のスペクトルを直接観察した。
その結果,溝の位置に依存してスペクトル変調が変化していることが分かり,探針の構造を制御することによって発光スペクトルを操れることが示された。こうした近接場光のスペクトル制御は物質表面に吸着した分子の顕微分光に不可欠な技術となる。
走査型近接場光顕微鏡を用いたナノイメージングとナノ顕微分光において,今回開発したスペクトル制御技術は,その本質的な技術として応用が期待される。これによって近接場光と物質の相互作用を介し,物理的,化学的現象を分子レベルの空間極限で観察できるようになるほか,光と分子を強く相互作用させることで光反応場を作り出す「プラズモニック触媒」の解明にも有効だとする。
研究グループは今後,この技術を応用して,物質表面に吸着した分子の構造や反応ダイナミクスを直接観察できる,空間極限における顕微分光技術を開発し,不均一触媒やプラズモニック触媒の反応機構解明に向けた研究を目指すとしている。